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書評(平成17年10月31日)

第46回書評
 『光る海へ』
(山名美和子著:新人物往来社)

 幕末から明治元年にかけての横浜を舞台としての小説です。主人公は生糸売捌店伊那富屋の梨江。横浜が開港すると同時に、横浜に店を出した父直吉が、六年目だったか七年目だったかに(本は図書館に返してしまったので正確な年数は忘れた)急死し、店を継ぐことになった梨江が、取引をした船が難破したり、横浜の大火で店が消失したり数々の困難を受けながらも、多くの人々の助けなどえながら乗り越え成長していく姿を描いた小説です。

 当時の養蚕、紅作り、綿作り、外国人居留区、ええじゃないか、など様々な状況もよくわかるように、話のなかにうまく取り込まれていて本当に勉強になる本です。 

 私は最初、この小説の内容は、誰か実在のことを書いたのかと思っていましたが、どうも最後まで読んであとがきなども読んでみると、作者がこういう人物を設定して作った小説らしいことがわかりました(でも誰かモデルになる人物はいるのかもしれない)。

 また、トロイアの遺跡を発掘する前のシュリーマンとの出会いの話や、新聞の分野を開拓しようと夢を抱く慎二郎、写真撮影に興味をいだき梨江にも好意を持つエディ、そしてその写真の話から下岡蓮杖という写真家の話まで色々出てきて非常に面白い内容となっていました。
 ぜひ皆さんにお薦めしたい一冊でもあります。



第47回書評
 『火輪疾走せり』
(羽山信樹著:新人物往来社)

  美馬真之となのる蘭学にとてつもない博識をもつ時計師(時計の職人)が、水戸斉昭の援助を得て、日本最初の自行火船つまり外輪船を走らせるという話。ただし主人公は架空の人物だし、実際にはなかった話。

 でも出てくる人物は、ほとんどが歴史的有名人ばかり、渡辺崋山ら蛮社の有名な仲間はほぼ全員登場する上、千葉周作、海保帆平、島田虎之助といった剣豪、水野忠邦、鳥居甲斐守、会沢正志斎、オランダ商館長ニーマン、それに少年の頃の勝麟太郎(後の勝海舟)までも登場させている。

 私が気になったのは、そういう有名人のことではなく、この本の中で私が初めて知った幡崎鼎(はたざきかなえ)という人物である。彼は、渡辺崋山、高嶋秋帆、江川太郎左衛門(担庵)らの蘭学者に多大な影響を与え、また水戸で蘭学の指導などもしていた蘭学者だったようである。蘭学者の伝記も今までにかなり読んだつもりだったが、幡崎鼎という名に注意を抱くことは今までになかった。でも今回この本を読んでからかなり興味が湧いてしまった。

 この本の中では、主人公の美馬真之は実は、この幡崎鼎とともにシーボルトの身の回りの世話をしていたことから、彼にともに学んだ仲で、長崎では藤市、藤平と呼ばれていたという話になっているが、先ほども書いたように、この主人公は架空の人物であり、幡崎鼎の方が実在人物である。

 今後も、彼(幡崎鼎)のことを色々調べてみたくなった。まあ気まぐれな源さんであるからいつまでその興味が続くかしれたものではないが。

 最後に小説としてだが、別に作者はノンフィクションとして書いた訳ではなく、歴史的事件や背景を利用して小説を書いたに過ぎない。歴史をこれで知ろうなどと拘らねば冒険小説のように充分に面白い本だと思う。皆さんにもご一読お薦めしたい。

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