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書評(平成17年10月31日)

第48回書評
『難 風』
(安部龍太郎:講談社)

 以前『お吉写真帖』を読んでから安部氏の作品が気に入り、またこの作品『難風』を読んでみた。短編集だが、やっぱ面白い。ファンになりそうである。 
今回の作品も歴史小説だが、前回と違い時代の範囲は、戦国時代から幕末までと広い。

 収録作は、1「峻烈」は信長にまつわる話、2「佐和山炎上」は、関が原の戦いの佐和山で籠城した石田方の話。3「忠直卿御座船」は、松平忠直の話4「玉のかんざし」は朝鮮攻めのために築かれた名護屋城に纏わる話、5「伏見城恋歌」は武将木下勝俊こと後の木下長嘯子の話。6「魅入られた男」は、長禄年間の大江山の鬼にに纏わる妖しい怪異譚。7「雷電曼荼羅」は、雷電為右衛門の話。8「斬妖刀」、は幕末の有名な暗殺者・人斬り以蔵の話。9「難風」は、漂流船でアメリカ船に助けられた後、駐日イギリス公使オールコックの通弁(通訳)として日本に帰ってきたダンこと伝吉の話。
 
 ただし同じ作品を収録した文庫本では、表題は「峻烈」ではなく、「忠直卿御座船」となっている。
 どの作品も面白いが、「雷電曼荼羅」で雷電が一度優勝した後も、強いが気の弱い力士で、御前試合で負けた後、心境に変化が生じ、成長するきっかけとなったという話は、意外で結構面白かった。

 今後も、安部氏の作品を色々読んでみたい。



第49回書評
『子麻呂が奔る』
(黒岩重吾著:文春文庫)

 黒岩重吾氏はつい最近平成15年に亡くなった作家だ。古代を舞台にした歴史小説を多く書かれていた作家というのが私の印象だ。私は、彼の作品は、これ以外ではまだ3冊ほどしか読んでいない。といっても性に合わないとかいうのではない。日本の古代には興味が無いわけではないが、他の時代に比べると多少興味が少ないので、こうなったのかもしれない。

 この作品は、『斑鳩宮始末記』の続編とのことだが、表紙をみても、それらしき記述はなかったので、『斑鳩・・・』はまだ読んでいなかったが、読んだ。読むうちにシリーズものではないかと思ったが、後ろの解説を読んで、やはりと思った。シリーズ本は、順番に読むに限る。

 ただし作品自体は、この本だけ読んでも何の支障なく読める。廏戸皇太子(聖徳太子)の下で働く秦造河勝(はたのみやっこかわかつ)の部下で、斑鳩宮の犯罪調査の役についている調首子麻呂(つぎのおびと・ねまろ)を主人公とした小説である。中に出てくる事件は架空の話だが、時代というか年代ははっきり示され、その頃何が起きていたかも(時には事件の背景ともなって)古代歴史小説の大家らしくさらりと書かれていて、古代史ファンにはたまらないのではなかろうか。興味のある方には、一読をお薦めする。
(参考)後日読んだ「斑鳩宮始末記」の感想も下記に追記しておく。
 以前「子麻呂が奔る」という同じ黒岩重吾の本を読んで、書評などでも取り上げたが、実はこの本は、その同じシリーズの前作にあたる。
 順番が逆になったが、「子麻呂が奔る」を読み進むまで気付かなかったから、しょうがない。

 シリーズ前作のこの「斑鳩宮始末記」を読むと、少し子麻呂のイメージがかわってしまった。私は子麻呂は、「子麻呂が奔る」を読んでいたときは、細身で身長は普通で、身体は引き締まって敏捷、聡明な相貌をイメージしていたが、身体は引き締まって、聡明なイメージはいいとしても、どう大男のようなので、ちょっとイメージがズレてきた。本来このイメージを念頭において「子麻呂が奔る」を読むべきだったのかもしれない。

 印象だが、内容についての感想を書くと長くなりそうなので、別のことを書く。私は、40歳を過ぎても独身だが、この「斑鳩宮始末記」は、後編の「子麻呂が奔る」と較べると、男の股間のあそこに真珠を埋め込んだとか、媾合(まぐあ)いがどうのと、猥褻というか、そういう話が度々出てくる。官能小説というほどでもないが、独り者の私には刺激的で、読んでいて恥ずかしくなる思いだった。お釜ではありませんが、とってもウブな源さんなのでした。 



第50回書評
『室町花伝』
(安部龍太郎著:文藝春秋)

 タイトルだけ読んでのイメージは太平記の頃の話ばかりかと思っていたが、実際に読んでみると、後半には、義満やその子の義持の頃の話もあった。簡単な紹介をしておこう。

  「知謀の淵」、「兄の横顔」、「狼藉なり」、「バサラ将軍」、「アーリアが来た」の5作品からなる。表題にあるように建武の新政の頃から室町中期にかけての時代を背景とした短編集である。

 「知謀の淵」は、秩父氏の系統で江戸氏の一族に含まれる竹沢右京亮を主人公とした話。新田義貞の子・義興を騙して殺し、所領の恩賞目当てに鎌倉公方基氏に寝返るが、周りの眼は・・・・

 「兄の横顔」の兄とは足利高氏、つまり主人公は足利直義。彼は、後世では尊氏の代りに大塔宮暗殺など手を染め、汚れ役に回った感があるが、この作品は、それが実は直義が尊氏に知らず知らず操られ仕向けられた、というような考えからできた作品ではないか。

 「狼藉なり」は、土岐頼遠が大酒の後、京の街角で上皇の御幸に狼藉を働くが、酔った上での狼藉かと思っていたところ、そこには熱い思いが・・・・

 「バサラ将軍」は室町時代絶頂期の足利義満を主人公とした作品。

 「アーリアが来た」は、義満の死後、パレンバンの国王から象をはじめ珍しい品々が沢山贈られた。それを若狭の小浜から京へ運ぶのを成功させ商売を拡げようという馬貸の話。といっても途中の運搬の難儀が話の中心というより、(将軍を継いだ)義持と彼と継位を争った義嗣の勢力争いが絡み、敵からの襲撃もあり・・・・

 まあ興味が湧いたら自分で読んでみてください。お薦めしますよ!

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