このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

書評(平成18年01月21日)

『奇謀の島』(古川薫著・新人物往来社)

 (先に述べておくが、今回も書評というような内容でなく、単なる内容紹介になってしまった。あしからず!)
 9編からなる歴史小説の短編集である。

 第1編は、「影武者」。毛利元就に謀反を見破られ殺された家臣渡辺勝の子・通は、元就の重臣・桂元澄に助けられ、元就も黙認の形で成長していった。毛利氏が大内義隆に従って尼子攻めした時、大敗し、毛利元就も、七騎落ちという屈辱を味わった。その撤退の際の窮地におちった際、身代わりとなることを申し出たのが、何とその通であった。

 第2編は、本書のタイトルと同じ「奇謀の島」。これは有名な厳島の戦い、毛利氏と陶氏の決戦を描いた作品である。NHK大河で知った方も多かろう。毛利氏が飛躍することになった戦いである。

 第3編は、「遠雷」は、毛利元就の孫(元就の子吉川元春の子)の吉川広家の話。関ヶ原の合戦時、主家の毛利輝元は西軍の総大将に押されるが、吉川広家は、輝元に無断で東軍方の黒田などと話をつけ、毛利軍は動かぬかわり、戦後の領地安堵の約束を取り付ける。結果は東軍の徳川方が勝ったが、・・・・

 第4編は、「謀臣亡ぶ」。家康の側近の本田正信とその子・正純は、大坂の夏の陣の後、戦いの世は終わり、もう邪魔となった家臣、たとえば福島正則や大久保忠隣などを謀略で次々と追い落としていった。しかしその正純も・・・・・。大久保彦左衛門が語るスタイルで書かれた佳品。

 第5編は、「鯨波海峡を揺るがす」。大友宗麟と小早川隆景が関門海峡の制海権を握ることを目指して戦った門司城をめぐる戦いを描いた作品。

 第6編は、「武者の十字架」。毛利家の武将で、熊谷直実の子孫であり、キリシタンで熊谷元直の話。毛利家の重臣・益田元祥の仕掛けた罠にはまり、族滅させられる話。

 第7話は、「白露記」。大内氏の第25代当主大内持世が、赤松満祐の将軍足利義教の暗殺の場に居合わせ、義教と一緒に難に遭った時の話。

 第8話、「奇巖の庭」。画家の雪舟を明国に遊学までさせたのに、その才を最後まで見抜けなかった大内氏(大内政弘と大内義興の親子二代)と、雪舟とのかかわりを描く作品。 

 第9話は、「小京都山口燃ゆ」。大内家の重臣・冷泉隆豊は、同じく大内家の重臣陶隆房が謀反をたくらんでいるとして彼を撃つよう当主大内義隆に何度も勧告する。しかし大内義隆は、それを結局聞き入れず、宴などに明け暮れる。結局従二位受官の宴の最中攻められ、冷泉隆豊も義隆の最期まで付き添うことになるという話。

 古川薫さんは、いまや日本の歴史作家を代表する一人となったといっても過言ではなかろう。どの作品も、短編として過不足なく上手にコンパクトにまとめられた秀品ばかり。お勧めですよ。  

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