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書評(平成18年03月03日)

『禁裏御付武士事件簿 王事の悪徒』
(澤田ふじ子著・徳間書店)

  またまた澤田さんの作品を読んだ。ここ数年では、私が読んだ本の著者の中では彼女の作品がおそらく一番多いだろう。このシリーズも、これで第3弾になるが、第1弾の『神無月の女』、第2段の『朝霧の賊』も勿論読んでいる。タイトルから見てわかるように京都が舞台だ。澤田さんの作品のおそらく半数以上が、京都ではなかろうか。

 主人公の久隅平八は、禁裏や仙洞御所の警固にあたる禁裏御付同心である。表向きは、六尺棒をにぎり、脛巾姿で禁裏(御所)の寺町御門に立って門番するのが主の任務だが、非番の日には、行商人や虚無僧、遊芸人などに変装して市中の諜報活動を「市歩(いちあるき)」をおこなっていた。市歩では、奈良の生薬屋に変装することが多く、その際は久蔵となのっていた。いわば隠密であるが、彼は幼い時から幕府の直轄領甲賀の多羅尾(たらお)にやられ、隠士の大森捜雲から武芸百般と隠密の技をみっちり仕込まれ、京都に送られたのであった。まあ主人公の設定はこんなところだろか。

 第一話は、「蜘蛛の糸」。40代くらいの老いた娼婦ばかり殺されるという連即事件が、ここ2年続き、そんな折、平八は市歩の途中、お鈴という夜舞に声をかけられる。・・・・
 第二話は「印地の大将」。ある日、相方の高田喜四内と門番に立っていると、知恩院宮里坊のお留守居役・平松伝右衛門が、平八と視線を合わさないように門を通りすぎていった。不審をいだいた平八は・・・・・
 第三話は「王事の悪徒」。旅籠・渥美屋の道楽跡取りが亡くなった。迷惑者であったので、当初は弔いはしないといっていたのが、泊り客の杉田治部左衛門という浪人に諭され、急遽弔いを出すことになった。不審を抱いた平八は、同業者として通夜に出る弥兵衛に事情を聞きだすことを頼むが・・・・・
 第四話は「やまとたける」。奈良の生薬屋に身をやつして市歩を、山科へ向かう日ノ岡峠で若い娘に付きまとう数人の男がいた。娘は脅え、平八の背の後ろに逃げ込んだ。平八は、娘と男たち双方に血の匂いをかいだ。平八は機転を利かせ、近くにいた武士に助けを求め、その場を娘とともに抜け出すが、血の匂いが気になり再び日ノ岡峠へ・・・・
 第五話は「左の腕」。旅籠・若狭屋に4度目の泊まりとなる田中大炊助。尾張藩藩士ということだが、訪れるたびに身形が粗末になっていく。お菊は父の弥兵衛におかしいと訴えるが・・・・・
 第六話は「呪いの石」。ある日、平八は門番の仕事に出仕前に、椎の実を拾おうと盧山寺の境内に寄った。そこで広橋大納言のお屋敷に奉公する小女を目にした。無縁墓を目でたどる彼女の姿に異様な気配を感じた平八は・・・・・

 このシリーズ第3段では、特に新しい顔が登場しているわけではない(後の作品で今回初登場の人物が再登場してくるのかもしれないが)。少なくとも第3弾のこの本を通して登場するような目だった新顔はいない。
 それに対して、禁裏御付の隠密活動用の市隠のため設けられた旅籠・若狭屋の弥兵衛とその娘・お菊、平八の妹婿の長棟斎宮助、相役の高田喜四内、組頭・冨田清五郎、山村藤右衛門などなど、いつものメンバーが今回も登場する。今回特徴的なのは、今まで以上に禁裏御付総組頭・井上山碩の出番が多かったかな、ということ。気のせいかな??

 こんなこと書いても、まだ読んだことのない人には何のことかさっぱりわからんのチンプンカンプンの話だろう。
 それだけにもし今までの同シリーズ2作品を読んでいない人が、読むなら、やはり第一弾の『神無月』から読むことをおすすめする。前回の2作品とも読んだ方は、今回作も必読ですので、ぜひとも読んでみた方がいいと思います。

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