このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

書評(平成18年03月14日)

『しゃばけ』
(畠中恵著・新潮社)

  著者略歴を読むと、畠中恵氏はこの本で2001年の第13回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞しており、そのあとからもこのシリーズの続編他で今や売れっ子の作家のようです。私も名前は以前より時々書店などでみかけましたが、最近まで手にとってみることもありませんでした。先日、summyさんという方のHPでの本の紹介を見て、興味を持ち今回初めて読んでみた次第です。

  近年、私は女流作家の本を読むことが多くなった気がします。平岩弓枝さん、澤田ふじ子さん、杉本苑子さん、特に、阿川佐和子さん、竹内海南江さん、宮部みゆきさんといった綺麗なお姉さんが書いた本だと、それだけで興味持って読んだりして。(笑)
 畠中恵さんは、1969年生まれということだから、宮部みゆきさん(1960年生まれ)とほぼ同年代って、ところかな。

 作品は、江戸は日本橋通町の大通りに廻船問屋と薬種問屋の大店を開く長崎屋の17歳の若だんな・一太郎を主人公とする。一太郎は、長崎屋の主・藤兵衛と母おたえの間に子供がなかなかさずからなかった時、お稲荷さんにお百度参りをして効果があったのか授かった子であった。いわゆる虚弱体質で、その上一粒種なので、両親から溺愛され育ち、何かあるとすぐ寝込み、今までに数度生死の境をさ迷ったこともあった。
一太郎が5歳の時、祖父が一太郎に仕えさせるために連れてきた佐助と仁吉という奉公人(その実は、犬神と白沢という妖(あやかし(妖怪))が、今では二人とも店の手代として、彼の周りに控えていた。
 
 ある夜、一太郎が家を抜け出して、道をひとり歩きしているとき、職人が殺される現場に出くわした。彼は刃物を持った犯人に見つかり、追いかけられるが、途中、鈴彦姫やふらり火という妖の助けで何とか危機を逃れる。しかしその後、一太郎自身襲われる事件や、幾つかの事件が連続して起こる。それぞれの犯人は全くの別人ながら、そこには共通した状況が・・・・・

 この小説では、他にも屏風のぞきとか、鳴家(やなり)といった小鬼など色々な妖(あやかし)が登場する。おどろおどろしい化物ではなく、なんとも愛らしい妖達である。そしてこの小説のひとつのキーワードは、付喪神である。付喪神は、この小説の中の説明によると、人間が作った出来の良い物などが百年経つと魂を宿し、妖となったものらしい。

  一太郎の出生の秘密も、小説が展開するにしたがって、次第と明らかになり、それが事件と大きく関わってきます。普通の捕物帳なら、これだけ殺人事件が続くと、深刻な雰囲気が漂って暗くなるのですが、この小説では、愛嬌一杯の妖たちが、一太郎を助けて事件を解決していくという筋立てになっているので、凶悪とか暗さはあまり感じられず、どちらかというと、読んでいて楽しい、ほんとに文字通りファンタジー小説となっています。

  深刻な時代小説も悪くはないが、このようなファンタジー的な作品も娯楽時代小説としては、いいのではなかろうか。今後私のお気に入りの作家の一人に確実になりそうである。

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