このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

書評(平成18年03月14日)

『ぬしさまへ』
(畠中恵著・新潮社)

  これは先に採り上げた『しゃばけ』の続編というか、シリーズ第2弾です。日本橋通町の大店・長崎屋の若だんな・一太郎とそれを取り巻く妖(あやかし)などの仲間たちの話です。

  一太郎は、ちょっとのことですぐ寝込んでしまう病弱なたち。くしゃみ一つしただけで、手代たちに布団にくるまわれてしまうほど、両親から甘やかされている。
 彼の出生には実は秘密があった。亡くなったことになっている祖母のおぎんは、実は大妖の皮衣で、西国の武士だった祖父伊三郎と恋におち、妖である素性も納得の上で駆け落ちして江戸で暮らしたのだった。
 つまり母おたえは二人の間にうまれた一人娘。店は妖達の助けのおかげで、江戸一番の賑わいを見せる日本橋通町に大店を構える廻船問屋にまでなった。一太郎の父藤兵衛は元々は長崎屋で働いていた人間で、婿として入った。

 おたえと藤兵衛の間になかなか子供が生まれなかった。一度子が生まれたが三日で死んでしまった。その後、母がもう一度子供が授かりたいとお百度参りしてその効験が現れて一太郎が生まれたことになっているが、実は、一太郎が生まれるすぐ前に亡くなったことになっている祖母おぎんが、荼枳尼天に仕え、この世から去ることと引き換えに、以前亡くなった子の魂をあの世から蘇らせ生まれたのが一太郎であった。一太郎は特に人間と変わったところはなかったが、ただ妖が人間のふりをしていたり、人に見えない妖も彼には見抜けた。

 彼の身の回りを世話する二人の手代、佐助と仁吉も、犬神と白沢という妖で、病弱な一太郎の将来を案じるおぎん(荼枳尼天のもとにいる)から、彼のもとに送られた者たちであった。そして彼のまわりにはいつも沢山の妖達が、やってきて彼を助けたり、友達の少ない彼の遊び相手となったのであった。

 このあたりまでが前作『しゃばけ』で明かされた秘密。一太郎を沢山の妖達が助け助け、彼の身の回りにおこる事件などを、彼らの協力を得ながら解決していくのは、前作と同じ。
 この本では、前作と違うのは、短編集のつくりになっていることだ。「ぬしさまえ」「栄吉の菓子」「空のビロード」「四布の布団」「仁吉の思い人」「虹を見し事」の6作品がそれぞれ独立した話になっている。簡単にそれぞれの話の前振りだけ述べておこう。

 この本の表題ともなっている「ぬしさまへ」は、巻頭の話。人間として見ると色男の仁吉は、いつも沢山の恋文を貰うが、興味は無く、いつも無視していた。あるとき、彼に金釘文字のつたない文を送った娘が川に突き落とされて水死体として浮かび、彼に容疑がかかったが・・・・

 「栄吉の菓子」では、一太郎の幼馴染で数少ない友達の栄吉は菓子屋の跡取りだが、非常に菓子つくりは下手であった。ある日、いつも菓子の味にケチをつけながらも彼の菓子を買いに来る老人が、菓子を食っている最中に死んでしまった。栄吉は番屋に連れて行かれるが・・・・

 「空のビロード」は、これは前作『しゃばけ』のクライマックス、火事場での決闘の場面と似ているが、少し話の内容は食い違っている。一太郎には藤兵衛が外の女に生ませた腹違の兄がいた。藤兵衛から縁を切られた母は、住まう家など、別れる際多分なものをもらったが、その母が亡くなると、義父の家で単なる雇い人として働き、彼をこき使っていた・・・・・

 「四布の話」は、ある夜、一太郎のために新たに購入した布団が、若い女の声で嗚咽した・・・
 「仁吉の思い人」では仁吉の失恋の話。この本の中では一番面白かった。いくら恋文をもらおうとも人間の女には全く興味を示さない仁吉こと白沢だが、千年も昔から最近まで思い続けた人がいた。仁吉自身の昔語り。

 「虹を見し事」は、ある日一太郎が起きるといつもと様子が変わっていた。彼が寝起きする離れにはいつも、沢山の妖がいるはずなのに誰もいない。店の方でも、仁吉や佐助の対応がいつもとは異なり、まるで別人のようである。・・・・・

 あまり色々述べると、ネタ明かしになって興味半減でしょうから、まあこのあたりでやめておきましょう。ほんとに面白いよ。今回もモチ、お薦めの本です。

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