このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

書評(平成18年03月16日)

土御門家陰陽事件簿 狐官女』
(澤田ふじ子・光文社)

  この作品は、土御門家陰陽事件簿シリーズの第3作である。ちなみに1作目は「大盗の夜」、2作目は「鴉婆」である。3作とも一応全て読んでいる。土御門家は、実在した陰陽師で超人的伝説に彩られた安倍清明の末裔で、室町中期の安倍有宣(ありのぶ)の時から土御門家を名乗ったと言われています。安倍清明に関しては、最近陰陽師ブームで、映画、小説、漫画など様々に採り上げられていますから、ご存知の方も多いでしょう。私も大好きで夢枕獏さんの「陰陽師シリーズ」はほぼ全て読んでいます。

 江戸時代、幕府は民衆を効率よく支配するため、あらゆる間接支配の方法を用いました。人々を各宗派ごとに、本山末寺組織によって門徒として間接支配したりしたのもその一例。この時代、手相見・人相見、易者、占い師などは総称して陰陽師と呼びましたが、土御門家は幕府から朱印状によって彼らを全国支配することを許されました。逆にいうと土御門家から発給された職札(許状)が持たなければ、商いはできなかった訳です。ただこのシリーズ第3作にも出てくるように、職札がなくとも、貧しい家計を補うために占いなどを行う者はいたようで、今回はそのような浪人が、この本の中の7作品全部に、重要な役割を果たします。

 この作品の主人公は、笠松平九郎という土御門家に仕える12人の譜代の陰陽師の一人です。上は陰陽頭・土御門泰栄や家司頭の赤沼頼兼に仕え、下は地頭と呼ばれる各地区の陰陽師の束ね役の者達を通して、上の指示などを伝えるいわば中間管理職?のような立場の人物という設定になっています。12人の譜代の陰陽師は、伝承では安倍清明が自由自在に操った式神の末裔といわれています。
 平九郎はまだ独身で、剣の腕は達人並み。諸国に出て、地方の陰陽師達を監督する場合もあるが、今は京に帰ってきており、京での監督に当たっていることになっています。

 さて、今回の話ですが、先に述べたように、もぐりの易者の浪人が、準主役となっています。名は小藤左兵衛、もと美濃大垣藩士(京都藩邸勤め)の浪人で、五条鍛冶屋町の長屋で、お妙という女の子と暮らしていた。家にいる時は、京扇の扇骨の下請けの内職をし、夜になると京の町辻に出て、職札は持たないが、易者として稼ぐのであった。京扇の内職だけでは、賃金が安かったので、貧乏長屋とはいえ、暮らせなかったのだ。お妙は自分の娘ではなく、知り合いの同国郡上八幡藩の京都藩邸勤めの岩井甚九郎という者の娘であった。しかし甚九郎の父親が、上田仁兵衛という者に殺されたので(妻はその数日前に病死)、仇討ちの旅に出ることなり、子供を預けられ、一緒に暮らしていたのであった。

 一応、納められた7作品の簡単な前振りだけ述べておこう。
 巻頭の「因業な髪」では、左兵衛が登場するところから始まり、彼の人柄や、碩学ぶりなどが述べられ、また長屋の店主の一家の事件の顛末が描かれています。
 2番目の「闇の言葉」では、加賀屋という昆布問屋の企てを、大田心斎という(土御門家と何かと敵対してきた)大黒党の易者が占うが・・・・
 3番目は「奇瑞の鞠」。左兵衛は、大黒党の源斎という陰陽師が、土御門家の陰陽師に数人に囲まれ乱暴されていたところを助けるが、その際、占いの途中だが巻き込まれるのを避け去っていった女性が源斎に相談していた内容が気がかりで・・・・
 4番目は「狐官女」。仙洞御所内に仕える淫蕩な官女の話。
 5番目は「吉凶第九一段」。平九郎は左兵衛と一緒に散策に出たが、祇園社の境内で、茣蓙を敷き辻謡曲を行う若い浪人らしき人物が、地廻りに、怒鳴られている場に出くわす。・・・・
 6番目は「畜生塚の女」。平九郎は、左兵衛を、茶店で素麺でも食わないかと誘い出した。そこで2羽の鴉が鳴く声を聞き、自分は鴉の言葉がわかるといい、その気になる鴉の話の内容を、左兵衛に教えるが・・・・
 7番目は「浄衣の仇討」。6番目の話の中で、左兵衛の願いで、岩井甚九郎が早く敵討ちが出来るように、彼とその敵(かたき)・上田仁兵衛という者の似顔絵を、全国の陰陽師にまわし、探すことになる。効が奏して岩井甚九郎は早2ヶ月ほどで見つかり一旦京に戻るが、敵はその後なかなか見つからず・・・・・

 このシリーズは、夢枕獏さんの「陰陽師」のような呪術を使う場面は、全くといっていいほどなく、土御門家譜代の陰陽師という主人公が、庶民の幸せを願う普通の人間として、巷間の事件を解決していくつくりになっており、私としてはこれはこれなりに面白いと思います。
 この本は、第3作目ですが、1作目から比べると、かなり盛り上がってきた感じがします。また平九郎も、左兵衛という兄事する人物が出てきて、成長したような感じがします。彼を取り巻く人物も色々増えて、次作も楽しみです。勿論、皆さんにぜひお薦めしたい一冊でもあります(ただし第1作から読むほうがいいですが)。

このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください