このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

書評(平成18年03月20日)

【酒解神社・神灯日記】高札の顔』
(澤田ふじ子・徳間書店)

  この本は、2005年2月28日に発刊され、第23回京都文化賞功労賞を受賞した作品である。しかしあとがきなどでも著者が書いているが、表題作は1990年に書かれたもので、他も皆'90年代の作品です。著者愛着の作品集です。表題作『【酒解神社・神灯日記】高札の顔』は、大山崎の天王山の地にある酒解神社を舞台にしたものだが、これはサントリーの依頼で書いた作品で、サントリーの月刊誌「リカーショップ」に一年間連載された作品のようだ。

 この表題作は、10話からなるシリーズ作品集となっている。他に、「生死の町 京都おんな貸本屋日記」、「雪の狼 京都おんな貸本屋日記」、「若冲灯籠」、「雪提灯」、「哀れな中納言」の5話が収録されています。少しさわりなど内容も紹介しておこう。

 「酒解神社・神灯神社 高札の顔」の主人公は清華家右大臣・久我道兄(こがみちえ)が、町屋の女性に産ませた庶子、久我直冬(なおふゆ)。今出川烏丸東の屋敷で育てられたが、数ヶ月・半年と平気で屋敷を空け、行く末が案じられる放蕩者であったので、23歳の時に久我家の遠縁にあたる酒解神社の帯刀検校のもとに社僧見習いとして預けられたものだった。彼は、あまり精進するつもりはなく、祝詞なども覚えようとせず、日々本殿や境内の神灯のお守り役を務めていた。
 
 預けられて5日ほどして、勤めにあきてきた直冬は山をおりた。山麓の街道沿いの茶屋に入り、団子を食べていると、直冬は突然店を離れ駆け出した。茶屋の親爺は、食い逃げだと思い追いかけるが、直冬が駆け出したのは、茶屋から半町ほど離れた場所で若い女性が、荒くれの人足たちに絡まれているのを見つけたからであった。・・・・・
 この作品は、作者自身が語っているところでは、「祇園社神灯事件簿」に繋がっていったらしいが、主人公の直冬が放蕩者を装う人間という意味では、公事宿シリーズの菊太郎にも似ているかも。

 「京都おんな貸本屋日記」の2作品は、主人公は女にして貸本屋を営む於雪。於雪は、京都東町奉行所同心の沼田孫市郎と相思相愛で夫婦となったが、二人の間に子供が出来なかったので、二人で話し合いの上、円満に別れた。一旦扇問屋を営む若狭屋に戻ったが、別れた際、家に持ち帰った大量の本を活用して、若狭屋が持つ空家を利用して、貸本屋をはじめたのだった。・・・・

 「若冲灯籠」は、テレビ東京の「何でも鑑定団」で有名になった伊東若冲の名作「石灯籠図屏風」にまつわる話(少しだけ、関わるといった程度ですが)。ある雪がちらつく寒い日、若冲は京の神楽丘の竹中稲荷社の参道で、石灯籠を写生していた。・・・・

 「雪提灯」は、諸国買物問屋「但馬屋」を営む弥左衛門の話。彼は、今まで商いに熱中してきたが、最近は謡の稽古を口実に出かけ、密に囲った女の元へ通っていた。非常に短い作品だが、物哀しいというか寂しい作品である。

 「哀れな中納言」は、小早川秀秋の話。周囲から優柔不断で凡庸と謗られ、関が原の戦いでも、西軍を裏切る際その性格をあらわにした彼である。しかしその境遇を思いやると、この作品が指摘するように同情する点は多々あったと言える。

 全体的に見ても、非常にコンパクトにうまくまとまった短編集といった感じがした。お薦めの一冊です。

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