このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

書評(平成18年04月03日)

ゆめつげ』
(畠中恵著・角川書店)

  この本は今まで私が採り上げてきた畠中恵氏の「しゃばけ」シリーズとは違う作品である。独立した長編小説である。時代は、ペリーが来航してから10年というから1863年頃だろうか。幕末の話になっている。捕物帳は比較的というか、半数以上が実はこの幕末が舞台ではなかろうか。それだけに時代小説に慣れている私は、読みはじめは、時代設定はほとんど意識していなかった。しかし、話がクライマックスに近づいてくると、この幕末ということが大きく関係してくる。ここではそのことについては、この程度の言及で抑えておこう。

  主人公は清鏡(せいきょう)神社の神官兄弟の兄・川辺弓月(ゆづき)である。夢告(ゆめつげ)を得意とする今年22歳の若者だ。といっても、これまで役に立つ夢告はしたためしがない禰宜(ねぎ)という設定になっている(神主は父親)。本の帯紙に書かれていた兄弟のキャラクターの説明がわかりやすいので、ここで転記しておこう。

 「江戸は上野の端にある小さな神社の神官兄弟、弓月と信行。のんびり屋の兄としっかり者の弟という、世間ではよくある組み合わせの兄弟だが、兄・弓月には「夢告」の能力があった。ただ、弓月の「夢告」は、いなくなった猫を探してほしいと頼まれれば、とっくに死んで骨になった猫を見つけるというまったく役に立たないしろもの」

 そんなある日、上野にある由緒深い神社・白加巳(しらかみ)神社の権宮司の佐伯彰彦が、清鏡神社を突然訪れて、夢告の依頼に来た。安政の大地震の際に行方不明になった大店の一人息子の行方を、白加巳神社まで出向いてもらい占ってほしいというのだ。
 弓月は最初は断ったが、父親が、屋根の修繕費にでもなればと、目先の礼金に目がくらんだり、佐伯家とコネクションができるのは、将来的にも色々便宜を得られるかも、などと思惑したりで、結局、弟(4歳年下の18歳)をお供に、しぶしぶと占いの場所となる白加巳神社へと出かるのだった。
 しかし、これが思いもよらぬ事件の展開の端緒であった。・・・・・

 「しゃばけ」シリーズのような短編集も良いが、スリル感たっぷりの本となると、やはり長編にはかなわない。畠中さんは、長編のメリットをうまく活かして、しゃばけ同様の楽しい雰囲気も随所に盛り込みながらも、殺人事件もあるという、ゾクゾクワクワクといった興奮を十分味わらせてくれています。

 また彼らが白加巳神社で巻き込まれる事件が、単にそこだけの事件ではなく、幕末という歴史の流れとも大きく関わってきます。ある一つの歴史的事実をこの小説を通して考えてみるのも、面白い試みかもな、と思ったりもした。
 まあなにしろ、面白いです。勿論、源さんお薦めの一冊です。

このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください