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書評(平成18年04月17日)

『ハーメルンの死の舞踏』
(ミヒャエル・エンデ著・朝日新聞社)

 中能登町の鹿島図書館から借りてきた本である。ミヒャエル・エンデの本は今回始めて読む。「モモ」とか「はてしない物語」の作家として有名だそうだが、私は、それよりシュールレアリズムの画家エドガー・エンデの息子であるという話を以前聞いたことがあり、何となく興味だけはあった。
 
 今回も、タイトルが私の興味をひく内容だったので、著者の名を見るより前に先に中身を確かめ、読んでみようと思ったのだ。
 私は、大学生の頃、ヨーロッパの歴史、政治史だけでなく、文化史、社会経済史などに興味があり色々読んだ。その時、阿部謹也氏の『ハーメルンの笛吹き男−伝説とその世界ー』を読んだことがある。この本の後の解説の中でも、この本を採り上げているが、私もこの本を購入して、現在も私の本棚の中にある。そういう意味で、私もこのハーメルンの笛吹き男には、かなり興味がああった。
 
 また同じ大学時代、心理学や精神分析学にも興味があり、色々読んだが、そんな中で好きな学者の一人・河合隼雄がいました。彼は、グリム童話の話について心理学的側面から解説した本も色々書いており、それらを読んだりしました。またその影響を受けて、グリム童話ブームになる十数年前に岩波文庫でグリム童話を全巻読んだ記憶もあります。勿論、グリム童話の中にの「ハーメルンの笛吹き」があり、確か河合氏もコメントしていた記憶があります。

 それからもう一つ付け足しを言うと、やはり大学時代に、確か岩波か中公の新書で、近世のコレラが猛威を振るった時代を取り扱った『死の舞踏』という本が有り、読んだ後、強い印象を受けて記憶がある。
 これらの学生時代の記憶や印象が、この本に私を惹きつけさせたのでした。
 
 内容は、有名な「ハーメルンの笛吹き」の伝説を取り入れながらも、エンデの創意が色々加わって、独特な風刺的物語を作り出している。ハーメルンの町の支配層が地下の秘密集会所で、あがめる「大王ねずみ」は、彼らに金貨をひり出すが、そのたびに町中にねずみが氾濫し、住民は死の影におののく・・・・。色々なバリエーションのあるこの伝説ですが、エンデ版ハーメルンの笛吹き男は、そんな中でも、最も優れた作品と言えるのではないでしょうか。
 この本の解説は、訳者のひとりの子安美知子さんが、このエンデの作品が随所で暗示・風刺する事柄を、詳しく解説しており、それを読んでからもう一度鑑賞してみるのもいいのではないでしょうか。この解説は、読者に必ず読んで欲しいと思います。
 物語部分だけならば、1?時間もあれば読めます。2度読んでも3?時間だから、大したことはないと思います。それだけの内容というか奥深さのある本です。

 訳者のもう一人、佐藤真理子さんは、子安さんの話によれば、ミヒャエル・エンデの妻であるらしい。エンデ氏の「はてしない物語」の方の翻訳者でもあるらしい。そんな経緯から結婚したのであろうか。詳しくは知らない。
 
 ボリュームも、たいしたことはなく、エンデの最初の本として読むにはちょうどいいかもしれない。

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