このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

書評(平成18年04月29日)

『ウイルスの脅威−人類の長い戦い−』
(マイケル・B・A・オールドストーン著・
二宮陸雄訳:岩波書店)

   この本は岩波書店から出ている本である。
 ここ一週間ほど何かと忙しく、あまり本を読む時間がなかったが、一日数十頁づつ読み何とかこの本を読み終えた。

 お医者さんやこの方面の専門家などからみれば、この本は、概説書か、一般向けのガイドブック程度の本かもしれないが、素人の私には興味ある分野とは言え、なかなか読み応えのある本だった。
 訳者の二宮陸雄さんの本は、以前「源さんの書評」でもとりあげたが、「医者と侍」(講談社)を読んでいる。オールドストーン氏の名前は初めて耳にする。
  
 本の説明に入る前に少し余談。皆さんは、微生物、細菌、ウイルスの違いが、わかるであろうか。私は、こういった医学生理学関係の本を読む度に、再度確認するようにしている。この本の付録でも書かれているが、Yahooでも検索すればすぐに意味がわかるであろう、ここでは定義は特に記さない。
 この本ではウイルスも生物として扱っているが、私が読んだ幾つかの本の中には、DNAまたはRNAなどを持っているが、とても意志ある生物とは呼べないとする本などもあった。細菌と比べても非常に小さく細胞を持たない。
 こういう医学生理学的本を読む際には、解剖学的に、それぞれのものを、できるだけ頭の中で分類しつつ、読む必要があろう。素人が生意気言ってしまった。(^^;;
 
 本の説明だが、
 前半の第一部では「成功物語」として、「天然痘」、「黄熱」、「麻疹(はしか)」、「ポリオ」が取り上げられている。これらのウイルスによる病気は、現在、絶滅宣言した天然痘をはじめ、かなり撲滅に成功したものである。黄熱病では、野口英夫が、そのためアフリカで殉死していることは有名である。

 後半では、現在撲滅の挑戦が続けられている病気、「ラッサ熱」、「エボラ」、「ハンタウイルス」、「ヒト免疫不全ウイルス(HIV)」、「狂牛病」、「スクレイピー」、「クロイツフェルト・ヤコブ病」、「クールー」、「牛海綿状脳症」、「インフルエンザ」などの説明や現況などが書かれており、色々な問題点もあげている。
 難しい内容であることは確かだが、それぞれの病気の感染の仕方や症状も色々あることを、改めて確認でき、為になった。

 よく耳にする話だが、次のような怖い話も、この本でも載せている。
 鳥インフルエンザとヒト・インフルエンザは、本来は直接には(鳥イン→ヒト、ヒト→鳥)、感染しないが、豚を媒介とすることによって、豚の体内の中で、鳥インフルエンザの遺伝子とヒト・インフルエンザの遺伝子が、組み換えを行うことがあり、それにより鳥インフルエンザが変異したインフルエンザが、人に感染し、免疫を持たない人間の間で、そのインフルエンザが大流行するとか、昔大量の死人を出したスペイン風邪や、その他の病気が、少し形をを変えてまた出現する可能性がある・・・・。

 また多くの戦争などで、戦争でなくなった犠牲者数以上に、ウイルス感染症の病気によって多くの人間がなくなったりして、時にはそれが戦局を大きく変えたりしたエピソードも幾つか紹介して、いかにこういうウイルスによる病気が恐ろしいかを述べている。

 そうかと思えばフランス、ドイツ、日本で起きた人為的な不味い処置によるHIV感染の例も責任者などの名前を揚げて紹介し、「企業と政府の権力をもている人々は、彼らと同じ国民である大衆の健康よりも経済的政治的配慮の方に重きを置いた」として痛烈に批判したりもしている。
 色々興味をそそられる話が多い。

 こういうものを読んだからと言って、素人の私らには大した予防も、できそうにない。しかし医者達が、病気を撲滅する際に、まず原因や感染源を感染ルートなどを特定しようとしたように、戦う相手(病気)を、知ることは、少しでも防備上有効のことに思える。 

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