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書評(平成18年05月20日)

『役小角仙道剣』(黒岩重吾著・新潮社)

   私は、結構この役小角(えんのおづぬ)に興味がある。黒岩重吾氏ではないが、黒須紀一郎氏の役小角関係の小説は、全てよんでいる。他にも確か2,3読んだ記憶がある。

 仙人や不老不死などに興味があるというのではなく、役小角という人間そのものが好きなのだ。飛行したとか、峻険な山を駆け抜けたという伝奇的側面に興味があるわけではない。勿論、修験道の祖という意味では、非常に興味があるが。

 白山や(地元の)石動山を開いたという伝承のある泰澄などより、ずっと興味深い人物だと思っている。今となっては、真の小角像というのは、わからないが、やはり朝廷側の体制に組み込みきれなかった、というか逃れた山の民などと深い関係があったのだろうと思う。

 密教を日本に伝えた空海なども凄いが、仏経とも、神道とも、道教とも違う、日本独特の修験道というものの基を築いたという意味では、空海より凄い人物といえるのではないか。

 持統天皇との会見も、実際にあったことだろう。また母親を人質にとられ、伊豆に流されたのも事実だろう。彼の弟子としては、前鬼、後鬼が有名だが、それ以外に、彼が弟子を多数育てたということは書かれていない。それでも彼が朝廷側から恐れられたのは、やはり彼を崇める人々が多くいたということだろう。母親を捕らえるという卑怯な手を使ってまでも、小角を捕らえて流さざるを得なかったほど、そういう人々が多かったのかもしれない。

 この本では、韓国連広足(からくにのむらじひろたり)が、不老不死の薬草を得ようとし、小角の従者となり、朝廷側との連絡係りの役を演じる。前鬼や後鬼から朝廷側の間者(スパイ)ではないかと疑われるが、結局裏切ることなく、小角が捕まるまで、仕える。しかし他の本では、大体彼をスパイとし、彼が密告したりして裏切るということになっている。

 また私は、当初、後鬼となるのは、小角の二番目の弟子・ヤマメ(女性)かと思ったが、違っていた。狛麻佐(こまのまさ)という二重間者が、最後には裏切るのかと思ったが、そうではなく、彼は途中から、完全に役小角に心酔し、後鬼となるのは、この小説では彼であった。これも意外であった。
 
 ここまで話の内容をバラすと、よくなかったかな。でも役小角の事は、ほとんど方があまり知らないだろう。私の言っている事など、おそらく、さっぱり何の事かわかわないだろうから、まあいいか(独言)。何はともあれ、黒岩重吾の役小角は、そういう意味で、一味違った役小角像で楽しめる。興味のある方は、一読をお薦めします。

 最後に、先日、夢枕獏氏の本を読んでいたら、彼も役小角の本を書きたいと述べていた。これまた楽しみである。できるだけ多くの作家に役小角を書いてもらいたい。そして私は今後も、色々な作家の役小角を読みたいと思う。

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