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書評(平成18年06月04日)

『ダ・ヴィンチ・コード(上・下)』
(ダン・ブラウン著・越前敏弥訳・角川書店)

 (上巻)
 噂にたがわずめちゃくちゃ面白い。私は、映画はまだ勿論観ていない。でもこれだけの内容のものを映画で果たして堪能できるのだろうか。いつも思うのだが、やぱり原作を読むに限る。
 今読んでいる本は図書館から借りてきたものだが、あまり面白いので、本屋へ行って文庫版を買ってきてしまった(ただし文庫版は単行本(上下2巻)と違い上中下の3巻からなる)。
 ちょっと事件のとっかかり部分を紹介。

 ルーヴル美術館長ソニエールが深夜に館内で何者かに殺害された。その死に様は、異常で何者かにメッセージを残して・・・。殺害当夜ソニエールと会う約束をしていたハーヴァード大学ラングドンは、フランス警察より捜査協力を求められ、現場へ赴く。
 殺害されていたソニエールの死体は、グランド・ギャラリーで大の字で全裸で横たわっていた。臍を中心に五芒星を自分の血で描き、ブラックライトペン(ブラックライトを当てなければ肉眼では読み取れない特殊蛍光塗料を用いたペン)で、手の先と臍を半径にした円を描き、それはダ・ヴィンチの最も有名な素描<ウィトルウィウス的人体図>をまさに模した形で横たわっていたのだ。そしてその死体の横には、ダイニング・メッセージが同じくブラックライトペンで書かれていた。
 フランス司法警察中央局警部のベズ・ファーシュは、実はラングドンを真犯人と考え、彼を呼んだのであった。
 ソニエールの孫娘であり、フランス司法警察暗号解読官のソフィー・ヌヴーは、殺害写真を一目みただけで、祖父が自分だけにわかる暗号を残したのだと思った。またベズ・ファーシェが、最初からラングドンを現場に呼び寄せ、確証をつかんだ後に彼を逮捕しようとしていることを知り、現場へ駆けつける。ラングドンが犯人ではないと確信するソフィーは、機知を用いてベズ・ファーシェをうまく巻いてラングドンを助け出し、現場の祖父からのメッセージを頼りに、祖父が何を伝えようとしたのか真相を知ろうとラングドンとともに逃亡を始める。

 まあ粗筋はこの辺でやめておこう。何しろソニエールが残したダイイングメッセージの解読も面白い。そのダイニングメッセージにかかわる色々な話も面白い。アナグラムによる暗号(秘密)や、黄金比、フィボナッチ数列、それからダ・ヴィンチが描いたモナリザや、最後の審判、岩窟の聖母の名画に隠された秘密など、読んでいて驚かされることばかりだった。

 ダ・ヴィンチが長だったこともあるシオン修道院という秘密組織については、私も以前ちらっと話しを聞いたことがあったが、これを読んでいて益々興味をそそられた。

 また新約聖書は、実はコンスタンチヌス帝の時に作られたものであり、現在はマタイ伝、ルカ伝など4伝からなるが、その候補は80近くもあったらしく、そのうち4伝に絞られ、なおかつ内容も人間的なキリスト像が、けされた話。コンスタンチヌス帝が実は異教徒で、揺らぎ始めていた帝国の人心の統一のために、異教の内容をキリスト教に多く取り入れ国教とした話。もともとキリスト教はもっと人間臭い内容であって、それが数十年前に発見された死海文書に書かれてあって実証されたが、バチカンがその内容が広がるのを恐れて、出版を抑えにかかったという話。本当に興味が尽きない話が満載である。

 余談だが高校時代に私は世界史で、ニケーアの公会議においてアタナシウス派の三位一体説が、指示され、アリウス派が異端として否定されたことを習ったが、あれを教わった当時、私は、アリウス派の方がキリストの思想としては、正統ではないだろうかと疑問をもったが、この本を読んで、やはりそうであったか、と思ったりもした。(この本では、異端の中で特にカタリ派が関係しているようなことが書かれてあったが・・・)
 
 この本を読む前の巷の噂では、キリストには子孫が実はいたとかいう謎について、書かれていると聞いたが、下巻はどういう展開になるのか、非常に楽しみである。

 (下巻)
前巻の終わりのあたりから、緊張感がどんどん高まり、ストーリー自体が更に加速される感じで、下巻も、一気に読み終えた。
 ラングドンとソフィーが、ソニエールが残したダイイングメッセージをもとに、ルーブルでキーストーンに繋がるらしい鍵を見つけて逃走し、チューリッヒ保管銀行パリ支店で、クリプテックッスを入手し、さらに宗教史学者のティービングの邸・シャトー・ヴィレットに逃げ込むあたりから、誰が敵で誰が味方であるかわからないような展開になって、まさにサスペンススリラーといった感じだ。
 私は、ラングドンやソフィーを執拗に追い回すベズ・ファーシェ警部が、意外と、オプス・デイの組織なり、導師と繋がっているのではと予想したのだが見事に予想を覆された。ティービングの執事レミーが、意外な行動に出たとき、クサイ人物だなあと思ったがやはり・・・・と頷いたものだが、その後のさらなる展開は、まさにあっと驚くものだった。ソフィーの出生自身が何かしらキリストの秘密に関わっているのはすぐ推測がついたが・・・・

 この小説は、とにかく謎解きが多くあって面白い。最初に殺害されたシオン修道会の総長であったジャック・ソニエールが暗号好きで、色々作ったこともあるが、タイトルのようにダ・ヴィンチ等の芸術品自体や、キリスト教史跡に秘められた謎解きも本当に面白い。

 この小説は、ノンフィクションながら巻頭で「この小説における芸術作品、建築物、文書、秘密儀式に関する記述は全て事実に基づいている」とコメントが書かれてある。
 それで人によっては、この本の虚構んぽ部分のかなりの部分を、真実であると誤解しかねないとして、バチカンや、この小説の中に名前が登場する実在のカトリック教団体・オプス・デイなどが、猛烈に反発し、物議をかもしているが、良識ある人間なら、読んでいてだいたいどこまで真実で、どこまで虚偽か、わかると私は思う。
 オプス・デイの名が出ているからといって、読者はそれが小説に書かれているように、影で暗殺者を操り反カトリックの人間を闇に葬ることさえする集団などとは考えないと思う。
 
 カトリック教会は、この話が全くの事実無根というなら、むしろこの中に出てくる死海文書(キリスト教初期の教えが書かれているといわれる文書)などの公開に、圧力をかけるのではなく、積極的に応じるべきではなかろうか。
 これを読んでいて思うのは、カトリック教会は、信者から崇拝され続けながら権威を持続しようとして、色々と無理をし過ぎたということだ。キリスト=神(つまりキリストは人間ではない)とする教義などを絶対に守ろうとして、秘匿したり虚偽を教えることが多くなり過ぎてしまった。現代では科学的に信じられない教えが多くなったり、矛盾が数多く生じて、それらを一生懸命繕うとすればするほど、綻びが目立つようになったということではないか。

 私はキリスト教徒でないから、無責任な発言かもしれないが、現代においてもはや常識的には信じられない事については、教会は、ある程度真実を明かし、また、どのようにしてキリスト教が成立したかも、明かす方がいいのではないか。つまり嘘をついた罪は罪として認め、反省深きキリスト教として、キリスト教をもういちど信徒全体で考え直し、21世紀の新生キリスト教として再構築する方向に進むべきではないかと思うのだが・・・・。

 キリスト教の団体や信者から批判を受けたりして、このコーナーが混乱するのもいやだから、私のコメントもこの辺にしておこうと思う。

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