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書評(平成18年06月09日)

『まほろばの疾風』(熊谷達也著・集英社)

  熊谷氏の著書は『荒蝦夷』についで二冊目である。あの作品はアザマロ(呰麻呂)が主人公であったが、こちらは彼の子アテルイ(阿弖流為)が主人公である。いわば続編のような感じであるが、初版年度を見ると、この本(『まほろばの疾風』)が先に書かれたようだ。でも話自体もつじつまが合うようになっているので、続編として読むには全然差しさわりがないように思う。
  
 『荒蝦夷』の読後のコメントでも書いたが、私は、このアテルイにかなり興味がある。前にも書いたが、アテルイ(阿弖流為)を主人公とした本では、澤田ふじ子著の『陸奥甲冑記』、高橋克彦の『火怨−北の燿星アテルイ』も読んでいる。背景となる時代は平安遷都前後の話である。

 皆さんもご承知(かな?)のように、このアテルイの叛乱(もしくはアザマロの叛乱)の後、色々東北に覇をとなえたり乱を起こす者達が登場する。前九年・後三年の役、藤原3代。伊達政宗、そして江戸時代には蝦夷(えぞ・北海道)でシャクシャインが叛乱、また会津・五稜郭などでの戊辰戦争もあった。このような東北北海道を拠点として中央に叛旗を翻したり、中央に威勢を示したりした人物の話は、どれも何かしら人を惹きつける魅力がある。
 
 私の家は、東北とは殆ど全く(血)縁が無いし、別に東北びいきをするつもりもないが、上に揚げたような者達の話は、何か東北以北にしか起こりえなかったような雰囲気があるように思うのだ。それだけに和風(大和風を略した言葉)とは異なる(エキゾチックという程でもないが)蝦夷風とも呼べるような独特な歴史のダイナミクスを感じるのだ。

 この小説では(荒蝦夷でも同じだが)、アテルイに協力するイワイ(磐井)のモレ(母礼)は、女性として出てくる。そして二人は、最後の段の投降前に結婚もし、二人して平安京で死ぬという幕引きになっており、全体を通してみると、アテルイとモレの恋愛小説にもなっている。読んでいて私も綺麗なお姉さんを思い浮かべて読んでしまった次第です。(#^_^#)

 また好敵手の坂上田村麻呂は、後半をかなり過ぎた辺りでやっと登場するが、なかなかいいキャラクターに仕上がっているように思う。武芸の達人であり、頭も賢く、少数で大胆・果敢な行動に出るかと思えば、大軍を率いての戦いでは、非常に慎重でなおかつ絶対に負けない戦略で戦う。大軍を烏合の衆とせず、歩兵や農民に到るまでまできちんと采配し、統率のとれた大軍でジリジリ押し寄せついにアテルイ側を追い詰める。という訳で戦記、勿論十分に面白い作品に仕上がっています。

 皆様にも推薦したい一冊です。

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