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書評(平成18年06月17日)

『うそうそ 』(畠中恵著・新潮社)

  シリーズ第5弾である。「しゃばけ」「ぬしさまえ」「ねこのばば」「おまけのこ」は、数ヶ月前一気に読み終えた。先月末、この本が発売になったが、図書館で購入されたのを知り、空くまで待って、借り出した。

 タイトルの「うそうそ」は「嘘嘘」の意味でなく、江戸時代の古語で使っているらしい。表紙の裏に次のようなコメントがあった。
 「うそうそ・・・・・・たずねまわるさま。きょろきょろ。うろうろ。」「江戸語辞典」(東京堂書店)より
とあった。

 いつものようにはじめの前振りのあたりの粗筋を少し書いておこう。
 今回は、主人公の一太郎(江戸一繁華な日本橋通町の廻船問屋兼薬種問屋の若だんな)こが、体を丈夫にするため、箱根の温泉に湯治にいくことになった。江戸から初めて出ることになる。長旅は若旦那には無理なので、小田原まで長崎屋の船で行き、そこからは籠や荷物持ちを雇って、箱根の塔之沢の一の湯に行き泊まり、湯治するという計画だ。
 勿論、二人の大甘の手代、仁吉と佐助の兄やがついて行く。また異母兄の松之助も同行することになる。
 しかしこの湯治の旅は初っ端から、齟齬をきたす。一緒に乗船したはずの二人の手代の兄やが、途中気がついてみると、どこを探してもいないのだ。小田原についても、やっぱり出迎えるようなことはなかった。
 強引に声をかけてきた雲助を雇い、高い雇賃をはらって、どうにか目的地の塔之沢温泉の一の湯に着てみたけれど、やっぱりここにも居ない。
 そして、すっかり疲れてしまった一太郎は湯にも入らず眠りについたが、その夜、一太郎と松之助の二人は、かどわかしに遭い、夜道を連れ去られることに・・・・・

 今回は、旅路での話しということでもあり、シリーズ常連は少ししか登場しない。二人の手代のほかは、鳴家と兄の松之助だけである。そのかわり、途中待ち伏せる、山神と人間の間に生まれた娘・お比女ちゃん(姫君)や鴉天狗などが登場し、今後も登場してきそうな気配がする。
 大昔、箱根山が噴火し芦ノ湖の半分を埋めたことがあああるが、その伝説と今回の騒動がかかわってくるのだ。

 まあ主人公が妖とのクォーターということであるから、設定しやすい展開ではあるが、イマイチとの感もある。しゃばけ以来の長編だったが、長編ならもっとスリルある話しにもできたと思うのだが、まだ著者の筆力が足りないのかな。伝説を利用するアイデアはいいと思う。全国各地には無数に伝説があることだから、今回に限らず今後も試したらいいと思う。そしてもっと面白い話を作ってくれることを期待したい。

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