このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

書評(平成18年06月24日)

『語っておきたい古代史〜倭人・クマソ・天皇〜 』
(森浩一著・新潮文庫)

  森浩一先生は、現在日本で最も有名な(日本史の)考古学者ではなかろうか。同志社大学名誉教授である。私も、学生の頃から時々その著を読ませてもらっています。
 今回は公演会で話した内容を記録したものに森氏自身が少し手を出来た本のようだ。
 
 第1章の「甦る古代人の知恵と技術」は、聞いたことの話もあったが、あらためて古代人の知識に関心させられた。
 最近NHKのプロジェクトXでも採り上げられた「たたら研究会」に、氏もかかわっておられたようだ。日本の豊かな森林資源を利用した砂鉄精錬が、純度の高い和鋼を生んだ。またその技術的背景には、稲作文化の灌漑技術が応用されていたという。やっぱり日本は匠の民族なんだなーと思った。古代の製鉄業のことをしるため、製鉄業の関係者などとも、積極的に交流し、学際の研究成果を取り入れる氏の姿勢にはいつも感心させられる。 
 この章では、他にも、石川県のチカモリ遺跡や真脇遺跡などの巨木文化のことや、日本の漆塗りの文化が中国より古いことなど、興味の尽きない話が多い。

 (2章以降は特に章は記さない)
 陳寿の『三国志』が、『漢書』や『後漢書』より、正確な記述が多い本だというのも面白かった。後の二冊が、相当時代を経てから書かれたものであるのに対して、『三国志』はせいぜい数十年後に書かれたいわば同時代史であり、なおかつ陳寿の編纂の仕方が、できるだけ正確な記述を心がけたというのも意外だった(逆に考えていた)。
 また氏が指摘するように、俗に『魏志倭人伝』という記事について、日本ではどうも卑弥呼ばかりに関心が集中するが、実はそれ以外にも、注目すべき内容が豊富なのも知った。
 それから、卑弥呼以前に戦国時代と匹敵するような大動乱時代があり、そのため前期・中期の弥生時代の農耕は普通は平野に集落を築いていたが、後期弥生時代では山城とも呼ぶべき環濠集落が多数現れるというのも、新たに認識した次第である。

 『古事記』や『日本書紀』は、天皇側や朝廷側からみた歴史書で、支配者側からの歴史というのは、よくわかる話である。だから氏も言うように、ヤマトタケルなどが卑怯ともいえるようなやり方(著者はテロといっている)で、クマソの実力者を倒したのは、逆にいうと、実力でクマソを倒せなかったことを示しているというのも面白かった。

 他にも北陸とも深い関係の継体天皇の話も興味深い。私も継体天皇で新王朝となったとする説を支持するものだが、氏が述べる説、武烈天皇のあと、よくいわれるように大和朝廷側の血脈が絶えたのではなく、国際感覚人物が、大和側にいなくなったので、実力のある男大迹(おほど)王を、天皇に擁立したという考えなどは非常に面白かった。

 とにかく古代史の本といっても、気難しい本ではなく、非常に面白い。また最新の成果というか考古学の動向も書かれており、非常に勉強になる。お薦めの一冊です。

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