このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

書評(平成18年06月30日)

『 再生の朝』(乃南アサ著・新潮文庫)

  乃南アサさんの本は、以前に数冊か読んだという程度。久々である。
 どうも登場人物の細かい心理描写を通して、ストーリーを展開することが好きな作家のようである。

 10月7日午後5時半、新都交通の萩行の高速バス『萩フェニックス号』が、品川のバスターミナルを出発、途中浜松町のバスターミナルで2人を乗せ、10人の乗客で萩を目指した。台風が接近という悪天候の中、二人の運転手(西倉剛弘・藤木正樹)で交代して運転し、約14時間後萩につくはずであった。

 しかし、深夜に、バス奥の乗務員休憩室で休んでいた片方の運転手が、首を若い女性に掻き切られ、殺害。そののち、さらにバスもジャックされてしまう。兵庫県の福崎のインターで高速道路をおりたバスは・・・・
 乗客・乗務員12人のそれぞれの心理を描き、台風が吹き荒れる中展開するハイジャックと、その結果起こるバスの山中での遭難、その緊迫した一夜の出来事を見事に描いている。

 私は、乃南アサさんの本を沢山読んでいる訳ではないが、女流のミステリー・サスペンス作家の中では、宮部みゆきさんなどとともに、屈指の内に入るように思う。この作品も、彼女の傑作のうちの一つに入るのではなかろうか。

 ただし私自身が、ちょっと残念に思った部分は、バスが、止まった後、闇の中に消えてしまったコカイン中毒の犯人(黒田美緒)が、バスの乗客が、崖崩れの下敷きの窮地に陥っている際、戻ってきて意外な行動に出るが。・・・この本の解説者は、このクライマックスの「ドラマチックな展開が感動」を呼んだと述べているが、私は、ここの部分が逆に不自然でどうも気に入らなかった。折角最後の方まで、本格的サスペンスという感じだったのに・・・

 まあドラマとは、不自然なものかもしれないが、この部分は出来るだけドラマチックに描こうという気持ちが大きく出すぎ、不自然な感じになったのではなかろうか。小説を書くとは難しいものである。勿論、人によっては、この部分に関しては、この本の解説者のように評価が高い人もいるわけだから、全ての読者を満足させるというのは、無理である。
 気になった方は実際に読んでみてください。ちょっとだけケチをつけましたが、傑作であることは太鼓判押しておきますから。

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