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書評(平成18年09月03日)

『ウイルス感染爆発』
(NHK「エボラ感染爆発」取材班・NHK出版)

  この本(『ウイルス感染爆発』(NHK「エボラ感染爆発し」取材班・NHK出版))は、勿論NHKの番組の取材に基づくものである。その取材は、NHKスペシャルの「21世紀の奔流」の第4回、『熱帯からの逆襲』(NHK総合テレビ、1996年7月12放送)の一部分を構成するためのものっだのが、その後エボラウイルスに関する取材成果を4倍の時間に拡大し、同年10月10日に衛星放送で『証言ドキュメント・エボラ感染爆』として放送されたものだということだ。
 その時の取材をまとめたものがこの本のようだ。
 
 しかし実は私はその番組を2つとも観ていない。観ていれば、もっと頭の中でイメージできより理解できた部分もあるかもしれない。後日、ビデオなど観る機会があれば観てみたいと思う。

 この本は、中能登町鹿島図書館から借りてきた。借りた動機は、私は子供の頃から医学の歴史を書いた本が好きで、こういう内容の本にすぐ手が伸びるのである。といっても医者になろうと思ったどういう訳かない。興味を持つ契機(きっかけ)は子供の頃読んだ、ノーベル平和賞を受賞したシュバイツァーの伝記ではなかろうか。それ以来シュバイツァーの本は何冊も購入し読んでいる。でも最近は若者に、シュバイツァー・・・といっても、誰?というほど知名度が落ちた気がする。
 そのあと、パストゥール、コッホ、北里柴三郎、野口英世などにも興味が湧き色々読んだ記憶がある。最近は、ウイルスというものに特に興味が出てきた。「源さんの書評」のリストなど見た方はお気づきかと思うが、そういう本の紹介もここ数年幾つかあげてきた。

 話は、この本に戻るが、このようなドキュメンタリーは、下手な科学小説よっぽど面白い。面白いというと、このような内容の本に対しては不謹慎かもしれないが、正直に言えば事実だろう。
 科学的知識を基に将来起こりうる緊急事態のような事故を描く小説や映画などは、それなりに警鐘を鳴らし意味があるが、この本を読んでいると、やっぱり実際に起きた事件のドキュメンタリーには、勝てないような気がした。

 ザイールのキクウィトで、最初の感染者の発生から、感染が徐々に拡大、病気の原因がわからず、そのうちに多くの医療関係者も感染し亡くなり、40万近く住むキクウィトの町は混乱、医師達はあわてだし、一部でエボラではないかと気づき、旧宗主国ベルギー救援を求める。次第に話は広がり、ザイール政府は困惑。首都のキンシャサに拡大させるな、世界に伝播させるなと、WHO他世界の感染症に関わる専門スタッフが動き出し・・・・・
 この辺の、エボラの脅威というか恐怖は、読むものを惹きつけて、こちらはエボラと知っているだけに、本の中の人々に「早く!早く!」と呼びかけながら、次々頁をめくる衝動に駆られる。

 このような危険なウイルスや細菌は、エボラだけでなく近年本当に多くなった。AIDS、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、ラッサ・ウイルス、マールブルグ・ウイルス、鳥インフルエンザ、・・・・。一時期からみるとぐっと感染者が少なくなったといわれる結核なども耐性をつけたものが現れ、感染者数が減少しなくなったという。また結核などの菌に対して強力な武器だった抗生物質も、複数の抗生物質に対して耐性をもつ多剤耐性のものも現れ新たな問題を引き起こしている。

 こういった事態は、最新テクノロジーで自然を切り開き、未来長久の文明を構築発展させようという人間に対して、人間よ驕るなかれ!との天罰、天からの試練もしくは自然の逆襲のような感じがしてならない。

 この本の中であるアメリカの教授は、「病原菌が、“出現する”という言い方は不正確だ」と言い、人間が彼ら(ウイルス)の領域に踏み込んでいるのだ、といっている。熊などが山林開発で追い詰められて、人里まで出没し、時には人間に害を与えるのとよく似ている。
 欧米の考え方では科学などの人間のもつあらゆる武器を駆使して制圧できるということになるのかもしれないが、もうそろそろ考えを変えないといけないのかもしれない、と思った。
 普通は穏やかな自然が牙を向けないよう、日本の里山のように、自然を破壊し開発するのではなく、自然を活かしつつ管理し自然とうまく共存するような方向に進める智慧というか思想が、21世紀がさらに22世紀まで続くための一つの有力な方途ではなかろうか。

 今後もこの分野には注目し続け、時にはまたそういった本をここで紹介していきたい。

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