このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

書評(平成18年09月23日)

『おとこ坂おんな坂』(阿刀田高著・毎日新聞)

  先日中能登町鹿島図書館へ行ったらこの本が新刊本のところにあったので、借りてきた。
 実は、この本には私が嗜んでいる輪島発祥の雑俳・段駄羅が第9話「恋の行方」の中に出てくる。その事を以前から聞いて知っていたから、本棚にあるのを見てすぐに借りることを決めたのだ。

 段駄羅が出てくるのには訳がある。私が所属する輪島段駄羅同好会会員の一人である夢岡樽蔵(筆名)さんが、阿刀田高さんが言葉遊びに興味があると聞き、自分が書いた段駄羅の冊子を送ったらしい。それで彼の筆名と、もう一人の会員・花市紋女(筆名)さんの名のお二方の名が小説の中で出てくる。おそらく二人の間でキャッチボールされた段駄羅連句が、阿刀田さんに進呈されたのであろう。そういうこともあって興味深く読んだ。

 内容は、「BOOK」データベースよると、次のように書かれている。「急で短い男坂、ゆるくて長い女坂。あなたはどちらの坂を選びますか?短編小説の名手が日本各地を舞台に描く12の物語。切なくもおかしい男女の人間模様、そして意表を衝く結末。これぞ短編小説。 」

 ちょっと楽した書き方だが、12話も簡単に紹介するとなると面倒である。勘弁願いたい。
 私は40を過ぎていまだに独身男だから、こういう大人の男と女が絡んだ話は、どうもいまだに苦手だ。恋愛ものは、悪くはないが、どうも避けがちである。このようなシャイで晩熟(おくて)が今の現況とつながっているのだろう。

 良かった話は色々あるが、ちょっと胸キュンの内容の話などは、苦手とはいえやはり心に残った。私としては第3話「あつもり草」、第6話「ルビコンという酒場」、第10話「生き方の研究」あたりが特に良かった。他には例えば第11話「滑る女」と第12話「あやかしの町」はちょっと不思議な世界というか、前者は幻想的、後者はほんのちょびっとホラーっぽい作品に仕上がっていて、これまた違った味の阿刀田作品を楽しめる。

 阿刀田ワールドをお得意の短編集として一冊で楽しめる、ファン必読の本となっています。

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