このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

書評(平成18年09月24日)

『センス・オブ・ワンダー』
(レイチェル・カーソン著・上遠恵子訳・新潮社)

  (この本は、実はもう何度も読んでいる本です。今回また読んでみました。)
 レイチェル・カーソンといえば皆さんが思い浮かべるのは『沈黙の春』ではないでしょうか。逆にレイチェル・カーソンという著者の名を知らなくても、『沈黙の春』という本の名だけは聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。化学薬品による環境汚染にいち早く警鐘を鳴らし、アメリカで発売当時一大センセーショナルを巻き起こし、ベストセラーになったと聞いています。

 私も、高校生の頃、読んで衝撃を受けた者です。最初は、訳文のため少しとっつきにくいところもありましたが、最後まで読んで以来、自然破壊・環境破壊には強く反発し、こういう問題に興味を持ち続けています。
 
 その『沈黙の春』は、私が生まれた年(1962年)に発売されました。キューバ危機があった年であり、またフランシス・クリック、ロザリンド・フランクリンらDNAの二重螺旋構造の解明などの業績でノーベル賞を受賞した年でもある。何か生命の神秘に関する事に縁のある年であるとともに、地球的危機を発した年でもあったのかな、と思います。

 今回紹介する本「センス・オブ・ワンダー」は、彼女の遺作である(英語の原題は「The Sense Of Wonder」で"The"がつきます)。帯紙には「子どもたちへの一番大切な贈りもの。美しいもの、未知なもの、神秘的なものに目を見はる感性〔センス・オブ・ワンダー〕を育むために、子供と一緒に自然を探検し、発見の喜びに胸をときめかせる」と書いてあります。
 子供とは、彼女の姉の息子・甥にあたるロジャーのことで、姉の早逝により引取って育てていた彼女が、自分が亡くなる少し前にその子に贈った本でもありました。

 写真が添えてある上に60頁足らずという本なので、一時間足らずで読める本ですが、彼女の自然を愛でる心が凝縮された彼女の思想のエッセンスのような本です。短いですが、彼女を知るには一番いい本かも知れません。短くてすぐ読めますから、「沈黙の春」のような重々しさもなく、彼女の本を最初に読むには一番いい本かもしれません。

 小さいときから散歩好き、海好きであった私には、彼女の思想は私と感性的に非常に近いものがあり、アメリカの中では好きな作家の一人です。彼女の作品の中でもう一つ揚げるとすれば、「潮風の下で」(上遠恵子訳・宝島社)を揚げます。海好きの人には是非読んでもらいたいと思います。またそうでない人にも、これを読んで海周辺の環境保護に注意を払うようになってもらいたいと思います。

 私は、よく海釣りをやりますが、釣りをやる人の中にも、防波堤の隅に(時には海へ)ゴミを捨てる心無い人がいますが、いつも非常な憤りを感じています。そういう人にも是非とも、これらの本を読んで考えを改めて欲しく思います。

 でも大人になってでは遅いのかもしれません。この「センス・オブ・ワンダー」のように小さい時から自然に接する教育が大切かもしれません。小さな花や生き物たちに愛らしさを感じ、踏み潰されることから守ろうとするような気持ちから、こういう感覚が生まれるのかもしれません。

 ゲームに明け暮れ、生き物を生き物としていとおしむ気持ちに欠けた若い人に、できるだけ多く、できるだけ早い時期に、読んでもらい、「The Sense Of Wonder」の気持ちを育んでもらいたいと思います。またゲームに修練するのでなく、こういう感性こそ科学を進歩させるものと信じて疑わないものであり、それだけに是非ともこの本はお薦めしたい一冊です。

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