このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

書評(平成18年09月25日)

『アポトーシスの科学—プログラムされた細胞死—』
(山田武・大山ハルミ著:講談社BLUE BACKS)

  今回の本は、ブルーバックスの本にしては、少し手ごわかった。ブルーバックスくらいの科学書なら普通はさして困難は感じないのだが、今回の本の対象者は、専門家か、そうでなくともある程度の知識をある者を相手に書いたのではないかと思うくらい、素人には手ごわかった。説明を殆どしてくれない専門用語も多かった。途中4章、5章あたりは、素人の私には難しかったので、理解することに拘らず、AはBであり、CのためDとなる、とあったならただその事実だけ読んで、それぞれの物の特徴・機能などには拘らず、先に進んだ。

 でも大体の言わんとすることはわかったとは思う。詳しい内容の理解度は50%くらいだが、主張・概要の理解なら80%というところではないか。
 表紙の裏に書いてあった内容紹介をまず転記しておこう。
 「生命の守護神——細胞自殺〈アポトーシス〉のナゾを追う!
細胞も自殺する。しかも、遺伝子に組み込まれている死のプログラムに制御された、精巧な仕組みによって死んでいく。このアポトーシスは、傷ついた細胞が衰弱の果てに死ぬ壊死とはまったく異なり、生に貢献する死である。生物の身体をつくり、守るための必須の機構である。自殺のみに関与する特殊なものでなく、細胞分裂の制御など、細胞の基本機能に密接に結びついたものであること、さらに、細胞の老化やガン化にも関係しているのではないか、あるいはエイズのような感染症にも関係がある!などなど、の報告が相次ぎ、基礎生物学の分野にとどまらず、アポトーシスは、今や身近な医学にとっても、大きな話題となっている。」

 この本の中では、狭義で使われるアポトーシス(apoptosis)とプログラミングされた細胞死の両方を、違いはあるにせよ、その自殺機構に大いに共通するところがあるとして、ひっくるめてアポトーシスとして扱っています。以前はネクローシス(necrosis/壊死)として扱われていた事象も、その中に多くのアトポーシスによる細胞死であるものも含められていた事を指摘します。つまり<個体発生は系統発生を繰り返す>という言葉で有名な、固体発生(受精卵から生物個体の出来てくる過程)におけるプログラミング細胞死なども、アトポーシスと関連付けて説明しています。

 アポトーシスはネクローシスとどう違うのか、またどのような時に起こるのか、そしてその意義など、興味深い話を、色んな例や実験をあげて説明しています。
 例えば著者は、このアポトーシスが癌と関係が深いこと指摘しています。異常増殖し暴走しようとする癌細胞もアポトーシスによって抑制されており、癌はアポトーシスが何かの原因で効かなくなったから昂進するのではないかというような考えを述べています。

 また第7章の「アトポーシスの意義」のところで、「有害、あるいは有害になりうる細胞は、治すより、積極的な細胞の自殺で排除する。これが多細胞生物が進化の過程で獲得した(遺伝子のコピーでミスプログラミングしない)高次の修復機構である。このような機構があってはじめて、生物はもろもろの細胞に障害を与えうる環境の中で生存し続けていけるのであろう。」と述べています。

 最後の章では、このアトポーシスの働きによりDNA修復能が高くなり、その能力に比例して動物の寿命も高い事なども述べています。その最後の章の最後に、これは紹介しないでおいたほうがいいかな、「心拍数一定の法則?」などという面白い仮説が出てきて、非常に興味深い話でしめています。

 難しい本ですが、読んだ後には生命の神秘を満喫でき、単に医学の知識だけでなく、人生を深く考えさせてくれ、きっとあなたにとって有意義な本になると思います。

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