このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

書評(平成18年09月26日)

『古代から中世へ—ピレンヌ学説とその検討—』
(H・ピレンヌ他・佐々木克巳編訳・創文社歴史学叢書)

  最近、少し本格的な勉強をしたくなったので、昔読んだ本などを再読したりしている。
 この本も大学時代に買って読んだ本である。

 この中に収められて冒頭に出てくるアンリ・ピレンヌの『マホメットとシャルルマーニュ』は、古代から中世への転換を、イスラームの発展に求めたピレンヌ・テーゼというものが述べられた有名な西洋社会経済史の論文で、一時は甲論乙駁のセンセーションを巻き起こした。

 この本は、そのピレンヌ・テーゼ(ピレンヌ学説)に関するピレンヌの論文、『マホメットとシャルルマーニュ』及び『経済的対照—メロヴィンガ朝とカロリンが朝-』を載せ、同時にこの学説を批判した代表的な3論文を載せている。また『ピレンヌ死後25年』という、20世紀に半ばにおける学界展望を述べた一編も加えられています。

 前もって断っておくが、別に私は自分がピレンヌ派だとか、反ピレンヌ派だとかいう訳ではない。ピレンヌ・テーゼの指摘する内容はいまだに色褪せることなく大きな意味合いを持つと考えつつ、反ピレンヌ学説を展開した人々の意見も十分納得いく反論だと思っている。ハハハ、立場が曖昧かな。

 とにかくピレンヌ・テーゼは魅力ある論文だ。しかしこの本に収められた反論を読むと、これまたグラッとするだろう。
 反論の第一番目の『ピレンヌとマホメット』のダニエル・デネト氏などは、ピレンヌの学説の一つ一つの反証をあげたりして、殆どその考えを全否定に近い意見を述べている。続く反論者の、『マホメットとシャルルマーニュ-経済的問題-』のモリス・ロンバール氏や『マホメット、シャルルマーニュ、及びリューリック』のスチューレ・ボーリン氏などは、マホメットなけらばシャルルマーニュなしとするピレンヌの学説を、皮肉っぽく、全く逆の意味で意義があると述べ、これまた痛烈に反論している。

 最後まで読むと、反ピレンヌに傾きそうになる人もいるかもしれないが、そう簡単にあっちこっち付くのではなく、あくまでこの本を叩き台として、他にも色々読み自分なりに考えることが必要だろう。
 歴史を学ぶとは、教科書で述べられた過去の事件を事実として認識することではない。沢山の歴史に関する本を読みつつ、あくまで自分なりの歴史観を死ぬまで追い求めることであろう。そのためには、自分なりにじっくり考えることが重要である。

 皆さんもたまにはこういう本で、歴史の観方の参考にされてはいかがでしょうか。それにはこのような古典が一番いいと思います。

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