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書評(平成18年10月18日)

『新型インフルエンザ・クライシス』
(外岡立人著・岩波書店)

  私は、インフルエンザの本に関しては今までにも何度も採り上げてきた。最近では、『四千万人を殺したインフルエンザ—スペイン風邪の正体を追って』や『インフルエンザ大流行の謎』などの本を紹介してきた。もうこの話題は飽きたよ、と思う方もいるかもしれない。

 しかし私は、日本にとって、北朝鮮の核問題と同じくらい、いやそれ以上に、この新型インフルエンザ・ウイルス(H5N1)が日本の脅威になる可能性が高いと思っている。大流行(Pandemic:大量の犠牲者を出す大流行)とまでいかないでも、その実際の被害が出るのは、意外と(私からいわせるとおそらく)北朝鮮からの攻撃などによる被害より早いのではないかと考えている。よって今後もたびたびインフルエンザや他の感染症などに関する本を紹介していくつもりだ。

 この本・『新型インフルエンザ・クライシス』(外岡立人(とのおか・たつひと)著・岩波書店(岩波ブックレットNo.682))は、今年(2006年10月18日現在)の8月4日に発行されている。私がインフルエンザに関して読んだ本の中では一番新しい。いわば新型インフルエンザ最新情報本である。

 例えばこの本の中で日本の厚生労働省が、今年の6月初めにH5N1鳥インフルエンザ及びそれから進展したの両者を纏(まと)めて「インフルエンザ(H5N1)」として、指定感染症に指定されたことも書かれている。このたぶんマスコミでも報道されたのであろうが、ほとんど注目を集めていない。私もこの頃、来訪した親戚を連れて能登巡りなどの対応で、バタバタしていたせいか、全然知らなかった。

 日本は先進医療国家だから大丈夫と思っている人も多かろう。しかし、この本や他の新型インフルエンザに関する本を読めばわかるが、新型インフルエンザの場合、いざという時にそなえての対策準備や予防治療の体制が整えられていなければ、じたばたするだけでどうすることも出来ない状況に陥る可能性が非常に高いのだ。

 何せ人類が始めて経験するウイルスである。免疫をもっている人がいないのだ。効能確かなワクチンもまだ開発されていない(応急的なワクチンは作られて準備されつつはあるが)。タミフルという抗ウイルス剤があるが、伝染後48時間以内でないと効果が無い。気づいたときにはタミフルも無効という場合も多く出てくる。パンデミック(大流行)の、いざという時、綱渡りのような対応になる可能性がある。

 その上、日本人の悪い特徴がある。この著者も言うように、エイズやSARSなど過去の対応をみてもわかるが、犠牲者が実際に出るまで対岸の火事として眺め、その時になってあわてだし、マスコミも以前の100倍、1000倍の報道の仕方をし、国中でパニックが怒るという可能性が現状では非常に高いのだ。

 何せ国・厚生労働省や医療関係者でさえ危機意識が非常に低く、危機意識の高い欧米のようなH5N1ウイルス(又はパンデミック)に対する危機管理的対策マニュアルのようなものは殆ど作られていないのだ。よって自治体や医療機関での、その流行に対処するための準備も、まだほとんど何も手が打たれていないのが現状なのだ。

 ではいったい、このH5N1インフルエンザは、何時頃、世界で(日本で)流行を起こす可能性があるのだろうか。(註:世界のどこかで大流行が起これば、非常に短期間で日本でも流行しだす可能性が大。飛行機など交通機関の発達で1日以内に入ってくる可能性も大)
 これに対しては世界中の研究者が、いつ起こるかわからないが、明日起こっても不思議ではない。そして確実にいつかは起こると言っているのだ。

 現在は、インフルエンザ流行段階(フェーズ)区分では、ヒトヒトの小さな集団感染があった程度でフェーズ3だが(WHOのH18年10月現在のフェーズ)、ここまで至っているということは、H5N1インフルエンザの人への適応がかなり進んできているということであり、本当にいつフェーズ4へと進み、さらにフェーズ5(地域内での大きな集団感染発生)やフェーズ6(流行期→パンデミック)になっても不思議な状況ではないのだ。昔と比較すると超高速でグローバルに物が移動する現代ではフェーズ4からフェーズ6の間は、ほとんどタイムラグもないかのごとく引き続いて起こる可能性が非常に高い。

 日本では、鳥インフルエンザが一時鳥を大量に殺した時期だけ、大騒ぎした。しかし現在はほとんど報道しない日本のマスコミ。インドネシアやベトナムで小規模な流行(勿論死者も出た)があり、また中国でもながく隠していたが(青海省でH5N1の流行が起き何百人という死者を出したという記事を報道したマスコミを摘発したりした)どうも地域的な流行があちこちで起き、対処しきれなくなってWHOに最近になって協力を求めだしたという。このようにインフルエンザの一番の発祥地帯といわれる中国は、非常に不透明な部分が多く、政府も不誠実で、危機的状況に陥らないと公開しない。こんな事を続けていると、次回は手遅れになる可能性もある。

 欧米では今でも最新の状況が盛んに報道され、渡り鳥などによってH5N1ウイルスがもたらされるのではと危惧されたりして、色々と対策が講じられているという。しかし日本は、最近の学力低下も影響しているのだろうか、マスコミも、誰もが批判できるような簡単な時事問題ぐらいしか、大きな声で報道しようとしない(または報道できる知的能力に欠けている)ので、相も変わらず批判しやすい問題ばかり朝から晩まで流す。

 この著者も言うように日本のマスコミは日本の社会に対する責任感が希薄なのだろう。こういうマスコミに依存していては、国を滅ぼす。この記事を見た皆さんには、積極的に危機意識をもってインターネットのIT技術など用いて情報を収集してもらいたいものです。
 またこの本も、できたら皆さんに読んでいただきたいです(私は七尾市立中央図書館で借りました。)

 最後に、参考にこの本の著者のホームページを紹介しておきます。
 新型インフルエンザウイルスに関する世界の情報を集めたものを、ホームページ上で公開しています。私も数日前から興味深く見ています。
 皆さんも是非とも一度ご覧になって、今後の備えに役立ててはいかがでしょうか。
 該当HP名及びURL↓
★「鳥及び新型インフルエンザ海外直近情報集」 
   http://www.superinflu.com  

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