このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

書評(平成18年10月19日)

『化学に魅せられて』(白川英樹著・岩波新書)

  著者の白川英樹さんは、勿論あのノーベル賞を受賞したあの有名な方です。1936年東京生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了。筑波大学名誉教授。2000年10月「導電性高分子の発見と開発」でノーベル化学賞受賞ししております。
 
 最近私は、ノーベル賞受賞者の方が書かれた本をよく読んでいます。田中耕一さん、小柴昌俊さん、朝永振一郎さんなど。日本以外の受賞者の方が書いた本も時々読みます。大学くらいまでは日本の受賞者の中では湯川さん本をよく読んでいましたが、他はあまり読んでいませんでした。
 
 実は今(平成18年10月19日)、あのDNAの構造を解読した一人フランシス・クリック(外人は敬称省略)の『DNAに魂はあるか』を一週間ほど前から他の本とパラレルに読んでいます。他にはシュレデインガーとか、ファインマン(これも今物理学の本を少しづつ読んでいます)、江崎玲於奈、アインシュタイン、シュヴァイツァーなど。今度J.D.ワトソンの『DNA』や野依良治さんの本も借りてきて読もうと思ってます。

 話が大分それましたので、この本に戻ります。読んでいると、高校の物理・化学を真面目にやっていた人でも、初めて聞くような用語(ソリトン、共役系、ドープ、P型、N型、スピン・・・)なども出てきますが、高校程度の物理・化学の知識のある人なら、読んでいくうちに意味もわかり、ほぼ全て理解できると思います。人柄でしょうか、小柴さんなどの本と比べると非常にわかりやすい気がします。

 尤も最近は、学力レベルがガクンと落ちましたから、理系の大学生でありながら、中学校の数学の補講をしている大学もあるようです。もしかしたらこの程度でも頭を悩ます理系大学生もいるかもしれませんが・・・・・。

 この本を読んでいて、白川さんがノーベル賞の受賞に繋がった契機は、田中耕一さんの場合とよく似ている気がしました。田中さんも高分子の質量を測定する方法を開発しようと、試験の日々を送っていた時、保持剤のアセトンと間違えて、グリセリンを用い、マトリックスとして既に金属超微粉末を加えてあった試料(ビタミン12)に混ぜてしまうという間違いをしでかします。しかしこれが後にソフトレーザー脱離イオン化法の発見につながっています。

 白川さんも、彼が東工大の助手の時、彼の指導でポリアセチレンの合成を行っていた韓国人が、指示書の触媒の濃度を「m(ミリ)」の文字に気づかずどうやら千倍にするという失敗をしたお陰で、偶然、(その時には)ぼろ雑巾のようにしか見えなかったけど、ポリアセチレンの繊維らしきものが出来たのに気づき、その失敗作について調べたのが大きな契機でした。それまではポリアセチレンは、粉末状のものは出来ましたが、溶媒にも溶解せず、固めてX線をとる程度しかできず、性質がつかめませんでした。繊維状にきれいに作る技術を発展させ、金属光沢を持つフィルム状までにすることに成功。

 ほとんど注目されることの無かったこの成果を、アメリカのマクダイアミッド教授が注目し、共同研究を持ちかけ、もう一人の受賞者アラン・ヒーガー教授も含めての3人で、ペンシルベニア(私立)大学において、このポリアセチレンについて研究することになります。そしてついに本来は絶縁体であるポリエンという有機体が、ヨウ素などのアクセプター(電子を受取りやすい物質)やナトリウムなどのドナー(電子を与えやすい物質)をドーピングすることにより金属のような電気伝導性を持つ事を発見。

 この発見を受け、その後、ポリアセチレンのような単純な共役系の高分子のみならず色々な共役系の高分子でも電気伝導性を持たせることに成功し、彼らの発見は導電性ポリマーの端緒となった訳です。

 この本を読んでいると、白川さんの謙虚で丁寧な話し振りが良く伝わってきます。その人柄が、いっぺんに好きになりました。また他の作品も見つけたら読みたいと思います。

 この本は、講演会を纏めたものが2つ(全体の約半分)と、対談集が2つ(1つは村上陽一氏との対談。もう一つは東大物性研究所の福山秀敏教授及び編集部との対談)からなります。専門家に向けて書かれた本ではないので、ほんとそれほど難しくありませんから、皆さんも、もし科学に興味があったら、一度読んでみることをお薦めします。。 

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