このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

書評(平成18年11月19日)

『六地蔵河原の決闘—八州廻り桑山十兵衛 』
(佐藤雅美著・文藝春秋)

 「八州廻り桑山十兵衛」シリーズ第6弾。これもここまでの作品全て読んでいるが、実のところ、前作までの話があまり浮かんでこない。今回キーマンとなる十兵衛の娘の話が前作あたりで出てきたことは何となく覚えているのだが、詳しい話が思い出せない。しかし幸いなことに、表題と同じタイトルの作品の話の中などで、娘八重にまつわる話が、説明されており、一応今までの話がわかり前作までを読まなくても支障がないようになっている。
 私も頭が老化したものだ。詳しく今までの経緯が説明されても、以前の話を思い出せない。ふんふんそういう経緯だったか、と初めて事情を聞く者のような感じで読んだ。

 このシリーズで何度も説明されているが、主人公の十兵衛が勤める八州廻りこと、関東取締出役は、江戸にじっとしていることができない。大名小名の支配地域、天領などが入り乱れ、ならず者が跋扈する関東八州を何十日とかけて巡回し、事件があれば出張って犯人逮捕など事件解決に向けて行動せねばならない。江戸へ帰ってきても、また何日か経つと、新たな巡回に出なければならない。それだけに妻の浮気など家庭に問題を生じやすい。このシリーズの中でも十兵衛の身の回りでも何度も問題が生じる。

 今回も、巡回から帰ってみると、知り合いの女性に十年以上預けてあった娘八重が、家に帰ってきており、一方後添えの妻・登勢は実家に帰っており不在。もしかして誤解や何か揉め事があって家を出て行ってしまったのではないかと思い、実家(麻布鳥居坂の登勢の兄の家)に出向いてみれば、義父(登勢の実父)の不幸のため、白幡村へ行っているという。気になるが、すぐにまた上から廻村の督促。
 
 十兵衛は仕方無く、途中妻のいる白幡村に寄れるような計画を立て、出かける。その廻村の途中、まだ白幡村に至る前、隣りあう村の村人同士の果し合いが行われようとしていた。十兵衛はそれを聞きつけ出向く。揉め事を収めようと双方を説得するが、双方ともいう事を聞かない。村堺の六地蔵河原で、果し合いが行われることになり、十兵衛は最後の説得にあたる。それも功を奏さず、かかれという号令がかかったところで、何と妻が登場、事件は意外な展開で解決する。(第二話「六地蔵河原の決闘」)

 またこの第6弾の本を通して、十兵衛は娘・八重に悩まされる(実は、彼女は彼の実の子ではなく、彼の留守中に亡妻瑞江が、下僕の佐平との間に作ってしまった子であった。ただしそれは登勢でさえ知らない秘密であった)。娘のことが気になって頭を離れず、旅先でも落ち着かない。その上、娘のまわりに身を崩した不良御家人のような者の陰もちらつく。また娘の留守中、その持ち物の中から、何と200両もの不審なお金が出てくる有様。気性が強い性格だけに、何か聞くと騒動が起こりそうで、なかなか直接に聞けない。廻村の仕事も大いに影響してもどかしい。・・・・・・

 ところで、今回は話自体の面白さの他にも、ちょっと興味を惹くことが幾つか出てくる。一つは数日前に採り上げた佐藤氏の新作『町医・北村宗哲』(角川書店)に主人公の友人として出てくる多紀楽真院(当時奥医師の最高位の法印にあった)の名がちょっとだけだが出てくることだ。著者は最新作のこの2作品は、暗に同じ時代設定だよと仄めかしているようだ。そのうち宗哲がこの作品に出てきたり、逆に十兵衛が、「北村宗哲」シリーズに登場したりといった場面が出てくるのだろうか。たまには、そういうお遊びがあっても面白いと思うのだが。

 また第3話の「暗闇に消えた影」には、お鳥見役の話も出てくる。お鳥見役といえば、このブログでも採り上げた諸田玲子の「お鳥見女房」シリーズで最近注目を浴びている職である。諸田さんのお鳥見役の説明と、佐藤氏の説明には少しニュアンスというか、お鳥見役の重要な役回りに違いがあるように思えるのだが、誤解かな??読み比べて比較するというのも面白いような気がする。

 色々述べたが、とにかく今回も佐藤氏の江戸時代に関する深い知識の上に、彼独特の諧謔味がきいた、とても面白い作品に仕上がっています。勿論お薦めの一冊です。

 (この本は、七尾市立田鶴浜図書館から借りてきた本です)

このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください