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書評(平成18年11月20日)

『針路を海にとれ 海洋国家日本のかたち』
(大山高明著・産経新聞出版)

  表紙の帯紙に「四面環海の「海洋国日本」に住む私たちは、将来のために、いま、何をどうなさなければならないか。日本の海洋にまつわる諸問題を検証し、進むべき道を提言する。「針路を海へとれ!」と。 」と書いてあった。本を手にとって開き前書きなどを少し読んでみても、常々思っている自分の主張とほぼ同じだったので、買ってきて読んでみた。

 私は、石川県七尾市という能登の港町(一応重要港湾)にすんでいる。そのせいか海や船に対しては非常に興味がある。海の世界は、憧れといってもいいかもしれない。私のHPを色々見てくれている人は気づいていると思うが、地元の海や船の写真や話を掲載した頁が多い。小さい頃から海を見て育ち、海を見詰めながら夢想にふけることがよくあった。乗り物は、全般に興味があるが、勿論一番好きな乗り物は船である。海や船への思いが断ち難く、一時は毎日のように船に乗っていた時期もある。

 それだけに、この海に囲まれた日本に住んでいるのに、海に全く興味が無い人たちを見ると不思議でならない。最近は私も色々な本を読んだこともあり、この感慨は更に深まった。食料品やエネルギーの大半を船による貿易に頼りながら、海洋というものに全く関心を示さない日本人が情けなくて堪らない。海辺のこの七尾の町でさえ、職業的に関わりが無ければ海に関心がない人間がほとんどである。これで本当に世界有数(おそらくトップ)の船舶量を誇り、世界のトップの船舶貿易量を誇る国なのであろうか。信じられないと思っている。この本の著者は、本の中のある箇所で、日本の国家形態の現状を、海洋国家でなく海辺国家と言っているが、まさにその通りだと思う。

 しかし著者によれば、この日本人のルーツは海洋民族だという。日本周辺の四方八方というか、大きく分けて7つのルートから、大海原を渡り、日本に移住してきた人々の子孫という。そして昔にあっては日本から、海外へ海洋を使って乗り出していった可能性が高いことも示しています。例えば南のポリネシアとか南米に、縄文土器そのものやその影響を受けた土器が出てくることなども指摘しています。また中南米大陸の遺跡の細菌の研究から、日本などのモンゴロイドが、凍ったベーリング海を渡ってアメリカ大陸に移住しただけでなく(この場合、細菌は極寒地では生きていけないから中南米に持ち込むことは不可能)、大海原をカヌーなどの船で渡った可能性が高いことなども指摘しています。だから著者はそのようなDNAが日本人に流れているから、今から努力して海洋国家になるのも可能だという。

 そして海洋国家として生きていくことの日本の重要性を、これでもか、これでもかと、あらゆる角度から、何度も主張しています。海洋国家として進むことの重要性を、陸地資源の少ない日本だが、海洋国家となれば新しい可能性が開けること、海運国家としての地位の確保の重要性、造船国家として生きていくことの重要性、海上交易路の安全を守ることなど色々述べています。

 私が読んでいてちょっと気になったのは、最近3度ほど日本の船舶会社が蒙ったアジアの海賊による被害の話です。ニュースは聞いて覚えていましたが、詳しい内容は知りませんでした。最初は約3億円ほどのアルミインゴット船の略奪。その次は約12億円ほどのアルミインゴット船の略奪。そして日本の会社のタグボート襲撃事件。背後には、中国のマフィアなどの組織が絡んでいるらしい。最初の事件の時などは、船が見つかったのは、中国の劉家港だが(船名は改名作業が施されていた)、中国当局は、事件にあった船の引渡しの時に、何と引き渡し料金として一億数千万円を要求して世界の批難を浴びて、結局とりさげたが、それでも被害を受けた会社から2000万円ほど徴収したらしい。そういう経緯から、事件の背後には中国政府も黒幕として絡んでいるのではないかとも噂されているらしい。

 考えてみると、日本の周辺国は本当にやんちゃな国が多いというか、やくざ者のような国ばかりである。北朝鮮に中国。ロシアや韓国も、よく似たものだ。そういう意味でも、周辺国は平和ボケした日本を何とかしてカモにしてやろう、と虎視眈々と窺っているのだから、日本人は周囲を海に囲まれた国であることを自覚し、海洋国家として進むのが当然と思われます。しかし実情は・・・

 この本を読んでいて、私は20年ほど前に読んだ塩野七生さんのべネツィアの歴史について書いた「海の都の物語」を思い出しました。当時西洋経済史関連でこの本を勉強していたこともあり、3,4度読み返し、サブノートもとりました(当時のノートも現存)。私が非常に大きな影響を受けた本の1つです。

 もともとはイタリア半島の付け根の小さい都市国家ながら、国民(市民)も団結して、人智の限り、努力の限りを尽くして、頑張ります。宗教や領土よりも都市国家べネツィア共和国の経済活動の繁栄を第一に考え、他宗教や他民族の国とも交易し、国の運営を図り、国民(市民)も進んで協力します。時には断固たる態度として、相手が大国であろうと、戦争さえ辞しません。そして千年以上もの間、都市国家として存続したといいます。

 資源が少なく貿易立国の日本は、本当はこのべネツィアのようにすべきはずです。たかだか数十年の繁栄で、のぼせたか、ぼけてしまったのでしょうか。
 著者と同じく私も、とにかく日本人には、本当に海に関心を持ってほしいと考えています。日本繁栄の理由の原点を振り返り、海洋国家の重要性を再認識し、世界をリードする海洋国家になれるよう、日本人一人一人に覚醒してもらいたい。そのためにもできるだけ多くの人にこの本を読んでもらいたいとも思います。

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