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書評(平成18年11月21日)

『アメリカに車輪をつけた男』
(アカデミアヴェントウーノ・企画制作:飛田浩昭・文
:JAMCA BOOK)

   アメリカに車輪をつけた男とは、世界で初めてT型フォードという大衆車を製作し、自動車社会の基を築いたヘンリー・フォードのことである。このように彼のことを評したのは、あの世界の発明王トーマス・A・エジソンである。

 ヘンリー・フォード(以下はほとんどヘンリーと名だけで呼ぶ)も、子供の頃から、技術的関心が非常に強かったらしく、少年の頃から友達などの時計を修理したりしていたようだ。彼の父は、自分経営する農場をヘンリーが継ぐことを希望していたが、彼は農作業が大嫌いな上に、自分の夢を捨てきれず家を出て働きに出る。若い頃は色々な機械工場の見習工として技術を習得していったようだ。この本を読んで初めてしったが、ヘンリーはエジソン電気会社の社員であったこともあり、そこの社員時代に自動車の研究製作に乗り出している。

 そしてエジソンとヘンリーは、そののち自動車の技術的な事柄に関して話し合う機会があり、それ以来、エジソンは彼を励まし続けたという(後に成功した二人は、何度もキャンプ旅行に一緒に出かけるほどの仲になったという)。

 自動車開発のために起こした会社は、ヘンリーの独りよがりの性格や自尊心の強さから、資金提供などの協力者などとの人間関係がうまくいかず、何度か失敗する。会社も数度立ち上げたりもしている。3度目に立ち上げた「フォード・モーター・カンパニー」が現在のフォード社の原点らしい。

 頑固なところもあるが、これが技術屋というものであろう。新しい時代を切り開いた人物だけに、素晴らしい点も非常に多い。私はもう彼のファンになってしまった。

 素晴らしい点と言えば、安く軽くて頑丈な自動車Tフォードを開発したことも勿論凄い。この本によると、その上ヘンリーは自身などがT型フォードを運転して自動車レースに何度か優勝するなど、Tフォードは当時最も速い自動車だったらしい。彼は「椅子にふんぞりがえり、部下をあごで使うばかりで自分では何もしない」ような経営者ではなく、日本の本田宗一郎のように、根っから物づくりが好きな社長で、物づくりする上での判断は、現場から得た実際の自分の勘や経験などであった。やっぱりメーカーの社長は、現場主義の人間が一番いい。

 また安価なT型フォードの大量生産を可能にした有名なベルトコンベアによる流れ作業も凄いし、それとも関連することだが、規格の統一互換性ということにいち早く注目していたことも凄いと思う。T型フォードは、1908年から1927年までの19年間も作られたらしいが、基本的な機構の変更はほとんどなかったそうだ。

  また彼は、自分が働いていた若い頃は12時間労働が当たり前だったのを、8時間労働にした。彼の経験から、この長さが、人々が集中して物事に取り組める時間という考えからだという。

 また、彼の利益を大衆に還元するという考え方も凄いと思う。1914年、ヘンリーは最低賃金を一日2ドルから5ドルに引き上げる。その狙いは「給料を上げる→生活水準が上がる→大勢が色々な物を買う→大量消費になる→社会全体の生活水準が上がる→人々がT型フォードを買う」ということであったという。つまり社員の購買力高めることで、他の人々の購買力も高めるという社会全体への影響を考えたものだというのだ。これにより、アメリカでは当時アメリカにある馬車の数と同じくらいT型フォードが売れたという。
 
 最後に、そんなヘンリー・フォードの含蓄のある(勿論この本に書かれている)言葉を幾つか紹介したい。彼は、アイリッシュ移民の3代目で、子供の頃はそんなにも裕福でなく、よって高等教育を受けたわけでもない。色々な見習い工として働いていたから現場の技術的知識は豊富だったが、図面を書くことも読むことも出来なかったという。それでも彼の言葉は、大学教授などの言葉と比べても、現場で得た知識の重層さを感じさせてくれる深長がある。

 「20歳であれ、80歳であれ、誰でも学ぶことをやめてしまえば老人になる。学ぶことをやめなければいつまでも若さを保てる。人生で最も重要なことは心を若く保つことだ。」
 「人は誰でも想像できることなら、どんなことでもできる。自分の人生をドラマティックに変えることができるんだ」
    (ヘンリー・フォードの言葉)

 あなたがもしエンジニアになろうと思っているよう若者で、図書館に行ってこの本を見かけるような機会がありましたら(恐らくJAMCAから贈呈された非売品の本です)、出来れば借りてきて読むことをお薦めします。きっと得るところがあると思います。

 (この本は、七尾市立田鶴浜図書館から借りてきた本です)

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