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書評(平成18年12月05日)

『快人エジソン—奇才は21世紀に甦る』
(浜田和幸著・日本経済新聞社)

 私は、子供の頃から色々な偉人の伝記を読むのが好きであったが、伝記では最もポピュアラーともいえるエジソンに関してのものを読むのは、今回がはじめてである。ちびまる子ちゃんでないが、エジソン=偉い人というイメージは、さくらももこさんと同世代でもある私にも強いのだが、有名な発明品や、エピソードや語録以外、詳しいことはほとんど知らなかった。

 この本の著者の浜田和幸氏によると、この日本人によく知られたエピソード、語録、発明品など、現在人口に膾炙させれ伝えられているものは、そもそも誤解や偏りが激しいという。

 エジソンは、7歳の頃、学校の先生から知恵遅れといわれて、6ヶ月で退学。後、母親のもとで歴史、哲学、科学などの本を読んで、独学でその後の人生を切り開いていく。7歳のときアイザック・ニュートンの「プリンキピア」を読んでその世界に魅了されたという。知恵遅れなどでは決して無い。それどころかこの7歳で既に天才の片鱗が見えている。彼はまた非常な読書家(物凄い速読家)で、デトロイト公共図書館の全ての本を踏破したりもしている。

 またメモ魔で、実験メモだけで約3千500冊を超える数の大学ノートの膨大さ、現在500万枚を超える彼のメモが残っているという。他にも、実験につかった試作品や道具など、彼に関する資料を集め、彼の全貌を知ろうと思ってもと、とてつもないボリュームとなるので、個人の研究ではとても無理とのこと。アメリカでは、1978年から国家プロジェクトでエジソンの全貌を明らかにする作業が開始され、予定では20冊の本を作る予定だが、十数年かかっても、3冊しかできていないという。それぐらい奥の深い人物なのだ。

 彼が、映画や蓄音機、電燈などの発明や、電話機の改良など個人で特許を取得した数は千数百という膨大な数にのぼる。なかには彼自身の言葉では理論的な枠組みは既に完成させたという「人間の霊と交信する機械」やガン細胞の破壊法など、ちょっとわれわれの想像を超えたものも非常に多い。現代の者から見たら科学的というより神秘的といえるような事柄にまで、探究心を抱き、色々な機械を発明しようとしていた姿が窺われる。「プリンキピア」を書いたニュートンが錬金術に凝っていたというのと、ちょっと似ているかもしれない。

 日本とエジソンの関わりというと、すぐに出てくるのは彼が発明した電燈のフィラメントが日本製だたということがよくいわれる。しかしこの著者によると、彼はそれだけでなく、日本に対する興味も非常にあったらしい。新渡戸稲造の『武士道』他、沢山の日本の書物を読んでいたり、多くの日本に関するコレクションがあったようだ。また日本人との交流も色々あったらしい。渋沢栄一、金子堅太郎、御木本幸吉、野口英世、星一(星新一の父親で星製薬、星薬科大学の設立者)などとも付き合いがあったようだ。

 とにかく彼の全貌はまだほとんど知られていない人物だということだ。例えばあのエジソンの有名な「天才とは1%のひらめきと99%の努力のたまものである」という言葉も、あそこだけが切り取られて独り歩きしている観がある。この本によるとあの名言は、実際には新聞記者の質問にうんざりしていたエジソンが「これまでの発明の中で、最もすばらしいひらめきの結果は何ですか?」と聞かれ、答えたコメントが少し変化して伝わったものらしい。本当のコメントは次のようなものだったという。

 「それは赤ん坊の中に天才を見出したことだ。生まれたての頭脳ほどリトル・ピープル※にとって住み易い場所は無い。つまり、年が若いほど、自分の脳に宿っているリトル・ピープルの声に素直に耳を傾けることができるのである。大人になってからでは至難の業になるが、それでもわずか1%のひらめきと、99%の努力があれば不可能ではない」
(註釈)※リトル・ピープル:エジソンの輪廻などを説明した仮説の中に登場する、地球外からやってきて人間などの生物の頭の中に住みついた小人のこと。エジソンは、これが人間の肉体や魂に正確や知能を植え込む作業を繰る返していると考えた。
 上の実際のコメントを読むと、本来私達が考えていた意味合いとは随分異なるのに驚く。

 また彼は、未来学者ともいえる側面を持ち、彼が色々な場面で述べた言葉には、現代においてあらためて考えさせられる名言も多い。

 エジソンは、よく常識にとらわれない発想力をマスターせよ、と言っている。そして「既成概念」にとらわれないことを主張していたが、この場合の「既成概念」も、現在の教育者がよくいう意味のものと少し違う気がした。彼は「あらゆる分野にまたがった知識があってこそ」はじめて既成概念にとらわれないことが可能となり、そのためには常に知識を蓄えるというなみなみならぬ努力が前提なのだ。

 読書家の彼らしく、エジソンは娘などにも毎日百科辞書など20ページずつ暗記しることを要求していたという。創造的教育の原点は記憶力と考えているのだ。ゆとり教育などといって、子供の側に立っているポーズをとり、日本の教育レベルを非常に低レベルにし、教育改革は難しいと言っているアホな教育者は、この本を読んで頭に銘記してほしいものだ。

 その他にも、機械文明の主客転倒を危惧した発言や、金本位制度などの金融制度についてコメントした言葉、核爆弾や戦争について言及した言葉など、鋭い言葉が多数出てくる。彼の深い知性から通常人とはとても及びも付かぬ未来予測力があったのだろう。まるで偉大な予言者のような発言に何度も驚かされた。

 また彼が、女性には興味があり情熱家であったが、子供には無関心であったなどという話は、人間は、全ての面で優れた人間であることは難しいのだなと考えさせられた。偉大な発明家であるということは、一つのことに集中するバカみたいなところがないとダメな訳で、これは仕方ないことかもしれないと思われた。天才が天才であるというか、天才の能力を発揮できる由縁であろう。

 とにかく面白い本である。エジソンの伝記を過去に読んだ人も、そうでない人も、今までのエジソン観をガラッと変えてくれる新しいエジソン伝です。お薦めの一冊です。

(この本は七尾市立田鶴浜図書館から借りてきた本です)

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