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書評(平成18年12月18日)

『神無月の女—禁裏御付武士事件簿』
(澤田ふじ子著・実業之日本社)

  禁裏御付武士事件簿の第一弾である。実は私は、このシリーズは、この本を含め既刊3冊とも読んでしまっている。読んでいるうちに、あれっこれ読んだことあるなと気づいたが、本の中ほどまで至ってはじめて、前に読んだ話だと気づいた。殆ど内容を忘れていたことだし、まあもう一度最後まで読んでやれと思って読んだ。おそらく前に読んだのは、徳間書店から出ているものだろう。表紙が見た記憶がなかったので、初めてだと勘違いしたのだ。

 ちょっと禁裏御付武士の職制の説明(この本の内容による)とキャラクターの紹介などしておく。時代だけいうと、第1話は、赤穂城主浅野匠頭長矩が刃傷事件を起した年となっており、上方が栄えていた元禄時代という設定になっている。

 主人公の久隅平八は、京都の禁裏の寺門御門を六尺棒を持って警護する幕府職制の禁裏御付武士で歳は26歳で独身。相役に40過ぎの高田喜四内がいる。寛永20年9月1日に出来た職制で、この役にある者を、幕府側では禁裏(御)付と呼んだが、朝廷側で御付武士と品良く呼んだ。

 禁裏の警護につく御付武士は、上と下の二組に分けられ、1つの組に与力十騎、同心50人程。上、下の組とも、同心は「壱」から「伍」まで5つの組に分けられ、御付武士の長屋も別棟。勤務は日替わりと五日勤務があり、禁裏の各門と仙洞御所の東と南の門に主に配される。表向きは禁裏・仙洞御所の警護と、財政の世話を名目にして働いていたが、朝廷勢力の監視の裏の任務があった。

 門番の際は、公家達の警戒心を解くために呆けた顔で任務についているが、実は彼らは皆、武芸百般であり、隠密の技をみっちり教えられていた。禁裏付の家の男は、4歳になると体が弱いなど特別な理由がない限り、幕府直轄領の甲斐・多羅尾にやられる(多羅尾でなく、柳生の元へ出される者もいたが、似たような修行を受けた)。

 平八も、そこで隠士の大森捜雲からそういった技を教わった。20歳代になって一人前になると、京にぼつぼつ戻され、家の跡をついて同心となるが、職務との特殊性から町衆との交際は極力避け、妻は仲間の中から迎える。どんな謂れがあるのか、女子たちは一様に植物の名前をつけるのを習わしとし、俸給は二十人扶持(約百俵、三十六石)。

 平八は、20を少し過ぎてから京に戻された、父甚左衛門の跡を継いだ。父親はその後亡くなった。平八の時の御付総組頭は井上山碩、組頭には山村藤右衛門と冨田清五郎がいた。家族は、母つがと妹かやとの3人だが、仕事柄帰らないことも多い。四条高瀬屋川筋の旅籠「若狭屋」に、お菊という相思相愛の女がいた。ここに泊まることなどもあった。

 ただしこの「若狭屋」は実は、<市隠し>という幕府の諜報活動の基地であり、町域の中に町人などになりすまして色々な職業を営む一方で、陰では幕府の隠密活動を助け、またその情報センターの役割などを果たした。「若狭屋」は、お菊の父親・弥兵衛が仕切っていたが、彼も元禁裏御付武士で、隠退してから、この店を出した。

 平八は、表向きの勤務の日以外も、奈良の生薬売屋や、俳諧士などに変装し、<市歩き>をして、京に不穏な動きはないか監視活動を行っていた。禁裏御付武士は、時には京都の東西奉行所や京都所司代などから依頼を受け、犯罪などの事件の探索に当たったりもした。

 まあだいたいこんなところであろうか。今回はシリーズ第1作目の紹介でもあるから、収められた話の粗筋などはやめておく。収められた話は7作。勿論連作集。各話のタイトルは、第1話「短夜(みじかよ)の首」、第2話「神無月の女」、第3話「はかまだれ」、第4話「名椿(めいちん)の壺」、第5話「野狐(やこ)」、第6話「鬼の火」、第7話「風がくれた赤ん坊」。

 私自身は、興味深く読んだのは「はかまだれ」の話。話の内容自体よりも、この話に関連して述べられた平安の昔京都を跋扈した有名な盗賊「袴垂れ」が、名門藤原家出身の公家で、周りに有名人が一杯いたことだ。彼の本名は藤原保輔。兄の妻は和泉式部、父は左馬権頭で従四位下、叔父の陳忠は「受領は倒る所に土をつかめ」の名文句で有名になった人物と聞き、驚いた。前にも読んだはずだが、その時はさして興味を惹かなかったのか、この話は全く覚えていなかった。

 勿論、小説の内容自体もユニークな立場の主人公を上手く活かしされている上に、澤田さんの作品の中ではかなり艶な感じも出ております。色々な意味で面白く仕上がっていると思います。あなたも興味をもたれたら、一度読んで見られてはいかが。

(この本は中能登町鹿島図書館から借りてきた本です)

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