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書評(平成19年02月3日)

『国際連合—軌跡と展望—』
(明石康著・岩波新書)

  国連は昨年国連創立60周年を迎えた。日本も国連加盟50周年を迎えた。そして事務総長は今年から、アナン氏にかわって、韓国の潘基文氏が第8代事務総長として就任することになった。アジアからはビルマ(現ミャンマー)のウ・タント(1961-1971)以来、36年ぶりのことである。(ただし私自身は、両国の間の歴史問題、靖国問題、日本の常任理事国問題etcで何かと反日的行動をとりながら、事務総長の選挙の際には、勿論日本も1票投じてくれるのでしょうね、とでもいった態度で根回ししてきた韓国に正直非常に腹が立っている。)

 カンボジアの内乱、カシミール紛争、9.11後のアフガニスタン、湾岸戦争とイラク、ソマリア内乱、ルワンダの内乱、旧ユーゴでの紛争、西アフリカの紛争、中部アフリカの紛争、東チモール問題などなど国連が関わってきた事件について経緯や結果を簡単に紹介。
 他に組織・制度面などからも、例えば常任理事国の拒否権問題、総会のあり方の変遷なども辿りながら、その意義や問題点なども述べている。

 また歴代事務総長、初代トリグブ・リー(1946-53:ノルウェー)、第2代ハマーショルド(1953-61:スウェーデン)、第三代ウ・タント(1961-71:ビルマ)、第4代ワルトハイム(1972-81:オーストリア)、第5代デクエヤル(1982-91:ペルー)、第6代ブトロス・ガリ(1992-96:エジプト)、第7代コフィ・アナン(1997-2006:ガーナ)の業績も紹介しています。(私の記憶では、ワルトハイムあたりからしか覚えていない。ウ・タントより前は本で名前を聞いた程度である。)

 この本では、何度も崩壊の危機に直面しながらも、それでも戦後60年に渡って人類の福祉と平和に貢献してきた国際連合について、その歴史を辿り、何に挫折し何に成果を出したか、問題点は何かなどを浮き彫りにする。それを通して、国際連盟の実態を把握し、今後の国連の有り方を考えるとともに、今後日本は、国連とどう向き合い、どのように国連活動に取組むべきか、国連外交活動を展開していくかを考えさせてくれる本である。

 明石康さんの旧ユーゴスラヴィアでの活動(国連事務総長特別代表)における実体験などの感想・意見も交えながら、書かれており、国連について考えるにはやはり最良の入門書のように思えます。

 明石さんが言うように、日本は、常任理事国入りを果たして国際的地位と名誉を認知してもらいたいという意識が先行しすぎ、多国間外交によって自国の国際的理想やヴィジョンを実現しようという努力が足りないというのは同感です。ODA供与国世界No.1などということを声高に言うより、国連軍備成立制度の成立にあたって重要な役回りを演じながらも、その制度に主要国70カ国が参加したというのに、日本はいまだ参加していないことなどを考え直すべきだと思う。

 世界の多数の国が危険を感じながらもPKOで活躍している。それに対して日本は野党の反対などのため一国孤立主義的態度に始終する有様。PKO活動が武力行使をともなう場合、国民の血を流すのは耐えられないという議論が横行した。
 1992年にそんな日本の事情をかなり考慮した「国際平和協力法」が採択される際も、実施面でPKO五原則が定められ、本隊業務への参加は3年間凍結された。つまり本隊業務への法的拘束がなくなったのに、日本はいまだに後方支援部への参加に執着している。こんなことで世界の信頼を得られると本当に思っているのだろうか。

 2005年3月に国連のアナン事務総長が、新常任理事国の参加要件として3つあげている。1)財政的、2)軍事的、3)外交的貢献の全てを十分に満たしていること。上のような状況ではとてもではないが日本は条件を満たすとは思えない。私は別に常任理事国になる必用はないと思うがなるつもりならお笑い種であろう。

 日本は、国連加盟の時に重光外相が述べたように、国際社会で「名誉ある地位を占め」たいと思うなら、近隣のアジアの問題にばかり目を向けだけでなく、アフリカ他世界の問題にも目を向け、もっともっと積極的に俊敏に行動すべきであろう。そのような国際貢献が、世界における日本の信頼を勝ち得て、日本の平和を保障することにもつながるのだと思う。

 国連について考えるだけでなく、21世紀前半における日本の外交路線を考えるためにも、多くの日本人に読んでもらいたい一冊である。 
(この本は七尾市立中央図書館(ミナクル3F)から借りてきた本です)

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