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書評(平成19年06月24日)

『十一面観音』(井上靖著・平凡社)

 私は結構仏像をみるのが好きだ。もし絵描きなら平山郁夫画伯と同様、仏像をテーマとしたものを多く描いたかもしれない。
 地蔵や観音像の素朴な石像も好きだし、円空仏のような木彫りも好きだ。運慶や快慶のような雄渾な彫像も好きだ。飛鳥時代から平安にいたる時代の仏像も好きだ。また密教系の神々の像もいい。それぞれに趣があっていい。
 だから時々このような本もよく読む。たとえば先にあげた円空仏に関する本や、若杉慧の石像などに関する本も時々読む。

 菩薩像では実のところ、観音菩薩像よりどちらかというと地蔵菩薩の方が親しみやすく好きである。しかしあくまでもどちらかというと地蔵菩薩というだけで、別に観音像が嫌いな訳では勿論ない。

 ところで十一面観音だが、この信仰はかなり古いらしい。わが国でも8世紀はじめ頃から盛んに造られたようだ。十一面観音の信仰の典拠は「仏説十一面観世音神呪経」または「十一面神呪経」に求められるという。この2つの経典で十一面観音は、いずれも十一面観音が頭上に3つの菩薩面、3つの瞋面(しんめん)、3つの菩薩狗牙(ぼさつくげ)出面、1つの大笑面、1つの仏面、全部で十一面を戴(いただ)くことを説いているそうだ。11の面は、千手菩薩の手と同様、衆生を救済する大きな力を示すものとされる。実際の表現や配置は様々で、面の数についても、正面の大きな面(本面)をあわせて11面にするものと、計12面にするものもあるという。
 円空仏のような簡素な仏像になってくると、かなり面数の少ないものもあったように思う。

 写真が載っている十一面観音像がある寺院は、法隆寺(奈良市)、宝室寺(奈良県宇陀郡室生寺)、聖林寺(奈良県桜井市)、渡岸寺(滋賀県伊香郡高月町)、観音寺(京都府綴喜郡田辺町)、道明寺(大阪市藤井寺)、羽賀寺(福井県小浜市)、石道寺(滋賀県伊香郡木之本町)である(ただし井上氏の文章には、写真に載っていない寺院の十一面観音像も幾つか紹介しています)。

 この本では、それらの観音像の写真を、片面(B4サイズ)全部とか見開き両面に跨(またが)ってなど、かなりアップされた画像で、同じ仏像でも角度や一部分をピックアップしたりして、多数載せている。その上解説というか、評論が井上靖で、とても贅沢な仕上がりになっており、仏像ファンにとっては是非ともほしい一冊ではなかろうか。
 でも発行は昭和48年と古く今となっては入手困難かもしれない(当時の価格はなんと480円)。見たい場合は、インターネット・オークションなどで探すか、図書館で探すのが良いと思う。

 文章量的には、1時間もあれば十分に読める本である。ただし私としては読むというより、十一面観音の表情を、井上氏の文章も参考にしつつ、じっくり味わってほしいと思います。

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