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『人はなぜ病気になるのか−進化医学の視点』 (井村裕夫著・岩波書店) |
序章 進化医学とは 第1章 進化の立場から見た感染症 第2章 自己免疫疾患とアレルギー—免疫の高いコスト 第3章 文明と疾患 終章 人はなぜ病気になるのか—進化の立場から また初っ端から手抜きだが、表紙裏に書かれた紹介文を引用する。 「アレルギー、高血圧、糖尿病。高度に進化した人が、なぜしばしば病気にかかるのだろうか。それは生命進化の過程と深く関わっている。その進化の道筋が遺伝子レベルで明らかになりつつあり、その立場から、病気の成因の理解が可能になってきた。本書では、揺籃期にある進化医学の現状を紹介しながら、感染症、免疫疾患、生活習慣病の成因について、進化の視点からわかりやすく解説する。」 進化医学とは、著者の説明によれば、病気の発生機序や病態を、生命進化の立場から理解し、予防や治療への対策を考えようとする学問の方法論だそうだだ。病気のみでなく、なぜ性が導入され、それは雌雄の2種であるのか、なぜ死という戦略を生物は採用したのか、など生命現象への理解を深めることができる、まだ揺籃期の段階だが将来有望な学問だそうだ。 次に本の紹介としてはマズイかもしれないが、ここでもう著者の結論を紹介しよう。 人はなぜ病気になるのか、という問いに対しては、ほとんどの病気は遺伝素因と環境因子との係わり合いによって起こるとするのが医学的にみて正しい答えだろう。感染症は、しばしば環境因子による疾患として取り扱われる。しかし病原体に感染して発病する人、しない人があり、発病しても病気の軽重は様々である。それは、生態防御反応、とくに免疫系の個人差によっって説明できる。免疫応答に著しい個人差があり、それは主として遺伝的に決定されたものであるという。 それでは遺伝素因とは何であるかというと、それは疑いもなく私たちのゲノムの中に書き込まれた情報である。ゲノムとは、ある生物の持つ遺伝子の1セット全体を言い、人は2倍体であるので、2セットのゲノムを持つことになる。このゲノムには数万の遺伝子(gene)が存在している。ヒトゲノムが解読が進めば、たとえば糖尿病、高血圧、通風などの疾病の病気の遺伝素因や、免疫応答の強弱の強弱が明らかになるだろう、またある病気への罹(かか)りやすさ、罹りにくさも、かなりの程度知りうることになろうと予測。 また、すべての人に共通であるが、他の生物とは異なる遺伝子がこの学問では注目される。この異なる遺伝子によって、人の特徴が決定される。そこには生命進化38億年の歴史が書き込まれており、私たちの遠い祖先たちが、様々な環境に適応した痕跡を読み取ることが出来る。 「適応」とは、選択された形質が生存に有利である場合に言うのだが、遠い将来を見通してなされるものではなく、よって系統的なものでなく、その生物が置かれた条件下で、最も多くの子孫を残したものが、最もよく適応したことになる。そしてその条件が持続すると、やがてよく適当した遺伝子が、その種の中に拡がり固定される。これが適応による進化の過程であるという。 生物の38億年の遺伝子の変化の歴史は、ゲノムに刻印され、もはや痕跡を消し去ることは出来ず、環境が変化するとかつて有利であった遺伝子が、返って不利になることがあるという。極端に言うと、ほとんどの病気が何らかの形で進化と関わりがあるということになる。 このような考えを、、感染症、免疫疾患、アレルギー、糖尿病、高血圧、肥満、通風などを進化の観点から説明している。 たとえば第1章の寄生体(微生物、ウイルスなど)と宿主の共振化の話などでは、生命の起源時から説き起こされ、それらの共生(共益的であろうが片益的であろうが)が起こった事柄との深い関係も述べられていた。また結核菌が、ストレプトマイシンを使ってもなかなか退治できずにいるとき、どこに潜伏しているかというと、どうやらマクロファージの中に潜伏しているらしいというのも不思議であった。また第2章も、私は花粉症なので、興味ある章でもあったし、第3章は、糖尿病と高血圧、肥満が主な話で、私自身は低血圧であるが、これも見かけだけかもしれず、かなり気になる話なので、興味深く読んだ。 途中種々の医学用語が出てきて、説明が一部わからない箇所もあったが、あまり気にせずにとにかく読み通した。わからない箇所があっても、著者が、言いたい事は理解したつもりである。私自身、この分野とは全く関係ないにもかかわらず結構好きで読むので、下地があるのかもしれない。初めての人には取っ付きにくい印象を受けるかもしれないが、一般向けに書かれた本のようだし、語彙説明なども豊富で決して難解な本ではありません。 読めばそれなりに(私の考えではかなり)得るところがある本だと思いますので、興味を持った方にはお薦めしたい一冊です。 |
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