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書評(平成19年07月10日)

『足引き寺閻魔帳−暗殺の牒状』
(澤田ふじ子著・徳間書店)

  澤田ふじ子さんは、私が好きな作家の一人である。このシリーズも、既刊は全て読んでいる。今までにもこのシリーズの本は何回か紹介した。ということで、何度も同じような事を書いても、しょうがないので、登場人物などについての説明は省かせてもらう。

 今回の収録作品は、「御衣(おんぞ)の針」、「俗世の輩(やから)」、「秋の扇」、「六角牢屋敷」、「雪の桜」、「暗殺の牒状(ちょうじょう)」の6話である。

 第1話は「御衣の針」。地蔵寺の住職・宗徳(足引き寺の一員)が飼う犬・豪は(足引き寺の一匹)、地蔵寺裏の長屋に住む腕のいい石工・重助の子で7,8歳になる新助が、ここ数日毎日のように、とぼとぼと高瀬川筋の各藩の京屋敷がある辺りをうろついていることに不思議さを感じ、彼を追跡するようになった。呉服屋のお針女(縫い子)として奉公にあがっていた姉が、自殺してから、重助は、そのような行動をとるようになったらしい。ある日、新助は、土佐藩京屋敷に潜りこみ、とうとう付け火をする。その後自分の行為に驚き、火傷をしながらも火を消そうとする新助を、犬の豪は、屋敷の者に見つかる前に、救い出し、地蔵寺まで引きずっていく・・・・
 自分が奉公している店やそこで働いている者を、犠牲にしてまでも、出世しようという浅ましい人間を、足引き寺の面々が懲らしめる。

 第2話は「俗世の輩」。ある日、足引き寺の一員である与惣次が、祇園白川の居酒屋で、同じ長屋の女・お佐栄が酌婦をしているのを見かけた。店の者に聞くと、客に非常に人気があり、彼女目当てにくる男も多いという。大店の若旦那にも言い寄られたが断ったという。そして、三条麩屋町の裏長屋に住む引き売り屋をしている吉之助と世帯を持つつもりという。二人の仲は居酒屋を辞め、吉之助と世帯を持つところまで進む。ところが新世帯を持つのも間近のある日、吉之助が町を引き売りしていた際、暴漢に襲われた。何とか命は助かったが、大怪我をする。西町奉行所の町回り同心の蓮根左仲(足引き寺の一員)は現場にかけつけ、彼を戸板に乗せ、地蔵寺に運び、暗殺者がやってくるのを待ち受けるが・・・・。事件は意外な結末に。

 第3話は「秋の扇」。質屋井筒屋は貧乏人にも親身で情け深く、質流れも少なく繁盛していた。その店の主人の唯一の悩みは、30近くにもなる娘おたつが、我儘で、嫁の貰い手がなく、手代にも遠慮される始末。嫁に行けずイライラすることもあるのか、商売のことがわからないにも関わらず、口を出し、主人の仁兵衛は困っていた。しかしある頃から少し表情が明るくなった。そしてある日、好きな男が出来たから会ってほしいといわれる。仁兵衛は財産狙いの男ではないかと考えるが、会ってみると悪そうな男の感じはせず、娘可愛さから、その男を信用して縁談を進めていくが・・・・・・。

 第4話は「六角牢屋敷」。蓮根佐仲が、年に6日割り当てられる六角牢屋敷の見廻りの際、その6日の間、彼が牢内を歩くと、毎日のように牢の格子を掴んで彼をじっと見る男があった。佐仲は、彼が何か自分に訴えたい事があるのではと考え、最後の日に、そっと別部屋に呼び出して、問い糾(ただ)してみた。それは驚きの内容だった。質屋に入った盗賊の一味と疑われ、無実の罪に陥れられ、今日明日にも斬首になるだろうという。原因は、質屋の主人が、彼が質を入れにきたのを知っているのにもかかわらず、犯人の一味だと証言したことだった。その話を信じた佐仲は、彼の斬首後、与惣次を使って調査をし、質屋の主人の虚言の意外な理由に行き当たる。

 第5話は「雪の桜」。雪の降るある日、佐仲は、四条室町の居酒屋で、酒のことで他の客にからみ、壮絶なまでに自暴自棄な行為をする男を見た。以前は腕のいい石工だったという彼が、そこまでになる姿に、深いわけがあると感じ、喧嘩を仲裁し、その男が熱を帯びているのを悟った彼は、彼を背中に担いで地蔵寺まで運んだ。寺で介抱してから理由を聞けば、病気の娘を貧乏のために助けることが出来ず死なせてしまった事だった。娘が重篤の際、名医の元に走って来診を頼んだが、断られてしまい、弟子にさえ診てもらえなかったのだ。怒る佐仲・・・・

 第6話は「暗殺の牒状」。大原の西明寺の法事の手伝いの帰り、宗徳は、恵比寿川通りの辻堂で、女が3人の男たちに手篭めにされようとするのを見つけ、助けた。しかし熱があるようなので、地蔵寺に連れてきて、裏のお琳(足引き寺の一員)の家で介抱することにした。
 そしてその女お佐江から、宗徳の兄や佐仲がいる西町奉行所の吟味方与力・五十嵐平蔵が、彼女の兄を盗賊の一味として強引に裁こうとしているのを知る。無実の罪で打ち首になりそうだった彼女の兄を何とか助け、その後平蔵の周囲を探索し、数々の怪しい所業を嗅ぎつけた。司直の者として許されざると怒った佐仲は、彼を壬生の無住の寺に呼び出し天誅を加える。

 このシリーズは、毎回、非常にばっさり天誅を加える話が多い。著者の性格なのか、男性的なまでに荒っぽく殺害したり、殺さないまでも大胆な粗っぽい懲らしめを行う話がほとんどである。こんなやり方で果たして実際の話の場合にはうまく行くかな、などと思う話も多い。しかしこれはあくまでフィクション(小説)なのである。著者がこのように書いた以上、この小説ではもう結果は変わることは無い。読者が結果を心配せずとも大丈夫な訳だ。痛快なまでに思いっきり足引き方式の勧善懲悪を行えばいいのだ。

 この本の前半を読んでいるうちは、「あれ?今回は意外と穏便な解決の話が多いのかな?」と思ってしまった。しかしやはり最後の2話はバッサリと斬る。殺(や)るときは殺(や)る足引き寺の面々なのである。
 今回も、面白い話がいっぱいであった。個人的に気になるのは、浄土宗本山知恩寺の寂明(じゃくみょう)という若い僧であった。話の展開ではそんなに重要な役どころではなく、ちょっとだけ登場しただけ。しかし私は次回作以降、彼がまたどこかで登場し、そしてその時は、深く事件に関わってくるのような予感がする。
 果たして私の予想は当たるであろうか。次回作が早くも待ち遠しい私である。

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