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書評(平成19年07月16日)

『「甘え」の構造』(土居健郎著・弘文堂)

 実はこの本は、今から25年程前の学生時代に一度読んでいる。 私が今回読んだのもその時買った本である(裏表紙に、昭和55年12月10日初版125刷発行とある(初版1刷は、昭和46年2月25日とある))。
 最近、本屋でこの「「甘え」の構造」(の増補普及版)をしばしば見かけるようになったので、今でもやっぱり人気なんだなーと思い、もう一度読んでみたくなったのだ。

 私は、学生時代この本を読んで以降、他の甘え関連の土居さんの本や、モラトリアム論で有名な小此木啓吾さん、河合隼雄さん、木村敏さん、・・・当時人気のあった日本の何人かの精神分析学者の本や、それからフロイト、ユング、フロムなどの訳書を読み漁ったものである。また中根千枝さんのタテ社会日本社会論など、多くの日本人論も盛んに読んだ。いわばこの本は、私が精神分析や日本人論にハマるきっかけを作った本である。

 私の持っている増刷の回数(125回)を見てもわかる通り、物凄いロングセラーというかベストセラーであった。おそらくたいていの方が「甘え」理論という言葉を聞いた事があるのではないか。
 昔読んだ本(つまり今回読んだ本)を開いてみると、色々な箇所に鉛筆で傍線を引いたり、また※印をつけて、辞書で調べた意味が書き込んである。「プレグナント」「ゲマインシャフト」「ゲゼルシャフト」「ゲシュタルト」「ルサンチマン」「超自我」「イド」「エディプス複合」「ドロップ・アウト」「ニュー・レフト」など。

 今なら精神分析学もかなり理解しているので、エディプス複合(コンプレックス)や超自我、イド等は調べなくともわかる。「ゲゼインシャフト」「ゲマインシャフト」は高校で習っていたが、よく理解していなかったのであろう。ドロップ・アウトやニュー・レフトなどを辞書で調べているのは、当時自分はまだ若かった事を感じさせる。
 このように書くと、難しくて取り付きにくい本のように感じるかもしれないが、そうではありません。たとえ幾つかわからない語彙があっても、広辞苑くらいの辞書があれば十分で、非常に理解しやすい本である。

 精神分析学的手法による日本(人)論・社会論の中では、私の中ではいまだにトップ3に入る本である。今回再読して、あらためて何とも凄い本だなと感動した。
 おそらくこの本を書くことになった動機の背景には、この本が書かれる数年前にあった大学紛争や、アメリカのヒッピー文化などの当時の世相が影響しているのだろう。著者が言うところの子供の時代の状況、人類的な退行現象を目の当たりにして、自分の甘えの理論を一般書として訴えたかったのだろう。
 当時、昨日(H19年7月15日)亡くなった宮沢喜一郎元首相が、通産大臣として書かれ、その発言が例証として挙げられているのも、時代を感じさられた。
 
 今はこの本が書かれた当時より、「甘え」の構造は、時代とともに色んな要素を加えた。さらに深まったという事だろう。また「甘え」のような概念を持つ語彙は、私が現在持っている「岩波 心理学小辞典」によれば、今では土居氏が指摘した日本の「甘え」だけでなく、「フランス語のgate,calinに相当するし、特に韓国語にオリグヮン、オリソクなどといった言葉がある」と書かれており、日本独特の語彙でもない事がわかってきたようだ。それでも再読してみて、その主旨は、全然色褪せていないように感じられた。

 「甘え」という語彙に限らず、義理と人情における関係、内と外の関係、恥の概念、気の概念、とらわれの心理、対人恐怖、「くやむ」、被害などといった事項を甘えの概念で捉え直す数々の分析力には感服させられる。
 今後も、自分なりに日本文化・日本人というものを考えるとき、この「甘え」の概念は、不可欠な分析手段であると言えよう。
 できるだけ多くの人に是非とも読んでいただきたい本である。 

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