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書評(平成19年07月21日)

『まんまこと』(畠中恵著・文芸春秋)

  畠中恵さんの時代小説だが、しゃばけシリーズ(新潮社)とは違う。彼女が新しく文芸春秋で書き始めた新シリーズのようだ。この本は第1冊ということになる。

 まずは、主なキャラクター紹介といこう。
 主人公は、江戸は神田の古名主・高橋宗右衛門の息子・麻之助(22歳)。小さい時は周囲からも期待される評判の良い子供であった。しかし16歳の時に、突然変わってしまった。それまでの生真面目、勤勉な性格が、お気楽な性格になってしまった。そんな彼の親友は、一人は同じく町名主である八木源兵衛の息子・清十郎で女好きで悪友といっていい。もう一人は、奉行所の町廻同心の息子で同心見習いで、こちらは真面目一途な石部金吉の相馬吉五郎である。吉五郎の実家は元々は同じく奉行所同心の野崎家だが、次男坊の冷飯食いなので、相馬家に養子に入ったのであった。この3人は、同じ神田の剣術の道場で知り合って以来の仲間であった。

 麻之助の想い人として、2歳年上で幼馴染だが、八木源兵衛の後添いとなる、お由有を配している。勿論、清十郎の義母になるが、清十郎にとっても幼馴染。そして彼女の子供が6歳の幸太。麻之助が自分の弟のように可愛がっている。これに第3話の中ごろから、お寿ず(20歳)という女性が、縁談相手として登場する。当時としては少し行き遅れなのだが、理由は、死の病にかかった町奉行所の水元家の次男坊の水元又四郎という男に気持ちを寄せて、面倒をみているうち二十歳を越してしまったのだという。麻太郎は、お寿ずのみならず、又四郎とも相知る立場になり、二人の女性との関係もあって、微妙な立場に追い込まれていくのも、全体の展開の中で話を面白くしている。

 今回の話は、第1話「まんまこと」、第2話「柿の実を半分」、第3話「万年、青いやつ」、第4話「吾が子か、他の子か、誰の子か」、第5話「こけ未練」、第6話「静心なく」からなる。
 
 説明し遅れたが、町名主は、江戸時代、重要な役割を負っていた。ちょっとその辺の説明をした本の箇所を抜き書きしてみよう。
 「お江戸では在任が出たとき、町方のお裁きは北と南の町奉行所で行う。だが江戸に住まう数多の町人に対して、その町方の役人の人数は余りにも少なかった。
 人が密に集まっている江戸では、ちょっとした、しかし本人達にとっては大事ないざこざも多い。しかしそれを全て町奉行所に持ち込まれたのでは、時がかかってたまらない。重要な件を裁くにも支障が出る。
 だから経費節約も兼ね、日々の雑多で小さな揉め事は奉行所に届け出ることなく、差配や名主が解決する仕組みになっていた。長屋などでも争い事が起これば、まず差配が出てきて、事を収めにかかるのだ。
 そういう事柄、たとえば金の貸し借りや住民同士の揉め事など、奉行所に届け出るまでもない案件は、町を預かる名主が屋敷の玄関先で調停をした。そのため名主の家には必ず玄関があり、そこに揉め事を起こした当人達や差配などが呼ばれ、決着がつけられた。ゆえに町名主は『げんか』などと呼ばれている。」

 引用が少し長くなったが、この小説は江戸の自治組織の中における名主の息子が主人公という設定で、町に起こる色々な相談事や事件を(時には名主の代理となって)解決していく。
 奉行所や火付盗賊改のような捕方ではないので、大捕物のような話はないが(でも今後そんな場面もあるのかな?)、麻太郎と清十郎という喧嘩に場慣れした2人と、同心見習いの吉五郎もいることである。時には、大暴れもしたりして・・・・・。

 しゃばけと比べると、やんちゃとはいえ、主人公が22歳ということもあり、恋愛関係などを含め大人の微妙な心理も描き、小説に彩りを与えており、なかなかの秀作に仕上がっている。
 次巻以降の、お由有やお寿ずとの関係も、どう展開していくのか非常に楽しみである。

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