このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

書評(平成19年08月21日)

『「人間の時代」への眼差し』
(柳田邦男著・講談社)

  柳田邦男氏のエッセイ集である。前半は、Ⅰ章が「思いやりの医学」、Ⅱ章が「ガン征圧最前線」、Ⅲ章が「高齢化時代の医療と健康」、Ⅳ章が「先端医学の光と影」ということで、医療関係のエッセイばかりである。氏の得意の分野なのか、非常に多方面な医療技術に対する話題ながらも、高度・専門化する現代医療の問題点を指摘するなど鋭いコメントが終始冴えわたっている。

 後半は、Ⅴ章が「謎解きの鍵・遺伝子」では(最近ではもうすっかり有名になった)コンラート・ローレンツの『ソロモンの指輪』やリチャード・ドーキンスの『利己的遺伝子』に関する話など、遺伝子に関する面白い説が幾つかでてきてコメントされている。Ⅵ章の「リスクを考える」では、飛行機事や交通事故、暴風禍の日米の違いなどのエッセイ、Ⅶ章は「頭の体操」でも動物行動学や脳に関する話題などを採り上げる。Ⅷ章の「執念とロマン」では、癌遺伝子研究で、今までの癌研究とは発想を180度変えるようなコペルニクス的転回がおこなわれた話や、昭和20年原爆と枕崎台風下の広島で気象観測が1日も欠くことなく行われた話が語られる。Ⅸ章の「映像が拓く現代」では、テレビ電話、ボイジャーⅡの海王星の写真、ドップラー効果を利用した心臓血流の映像の話、医療機器のMRIの話、テレビ映像が促進した東欧の革命の話などが語られる。そして最後Ⅹ章の「歴史の大変動」では、ソ連の技術の破綻の理由や、環境破壊の問題、暗号化の時代の話、イラク戦争の「ピンポイント攻撃」の大嘘の話など。

 上を見た通り、柳田氏の評論は、科学的・技術的側面を取材し意見したものが多い。しかし柳田氏は、東京大学の経済学部出身(いわば文系出身だが)で、NHK記者を経て、ノンフィクション作家になった方である。経済関係の本もあるが、その多くが科学技術に関したノンフィクションものである。
 私も(高校時代は理系であったが)、大学は(政治経済学部)経済学科出身で、卒業後電気メーカーに約10年ほど勤務して後、帰省して家業を継ぎ、現在は一応エンジニア的仕事をしている。それだけに見習うべきと考えている人物である。

 今日は私のコメントはこれぐらいにしておこう。Amazon.co.jpに出ていた本の紹介文を以下に転載し、私の下手糞な説明の補説としたい。

/////////出版社/著者からの内容紹介//////////
「見えないものを見る眼」を養う最適の1冊!
「科学の時代」から「人間の時代」へ
21世紀へ向けて、ますます肥大化・高度化する科学技術。世紀末のいま、科学技術と人間のあるべき姿を原点に帰って考える。——

科学技術の発展は、人間に大きな福利をもたらすプラスの面がある一方で、個人や社会に損害を与えるマイナスの面が、必ずといってよいほどある。そして、科学技術のひとり歩きを放置すると、そういうマイナスの面が拡大されていく危険がある。
20世紀末の現在は、マイナス面をかかえたまま肥大化した科学技術の現況を見つめ直し、本来主人公であるべき人間にとって科学技術はどうあらねばならないかを、原点に帰って考えるべき時期ではなかろうか。原点とは人間尊重だ、というのが私の考えである。そういう願望をこめて、私は21世紀を「人間の時代」と呼びたいのである。——(あとがきより)

////////内容(「BOOK」データベースより)//////////
21世紀へ向けて、ますます肥大化・高度化する科学技術。世紀末のいま、科学技術と人間のあるべき姿を原点に帰って考える。

///////著者紹介//////////
1936年、栃木県鹿沼市に生まれる。東京大学経済学部卒業後、NHKに入局。社会部遊軍記者として、災害事故、科学、航空機問題などの報道にたずさわる。1972年、『マッハの恐怖』により大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。1974年に、NHKを退職し、著作・評論活動に専念にする。『空白の天気図』『航空事故』『事実の時代に』『ガン回廊の朝』(第1回講談社ノンフィクション賞受賞)『零式戦闘機』『撃墜』(ボーン上田国際記者賞受賞)『事故調査』『犠牲——サクリファイス』『「死の医学」への日記』など著書多数。1995年、菊池寛賞を受賞。

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