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『超バカの壁』(養老孟司著・新潮新書) |
この本は新潮新書の養老氏の第3弾である。他2冊は『バカの壁』、『死の壁』である。その2冊も、確かこの書評のコーナーで紹介しているはずだ。 養老氏の本は、ベストセラー『バカの壁』を書く前から、色々と読んでいた。養老氏が出演していたNHKの人体や脳関係のテレビの影響もかなりある。これら新潮社の3冊が皆ベストセラーになったのは、それ以前の『唯脳論』、『脳の見方』、『ヒトの見方』などと比べると少し易しい(と私には感じられる)せいもあるのだろう。とは言えレベルを落としたというのでもない。あいかわらず相対的というか意表を衝くような視点での指摘は、スゴイと思う。やはり解剖学者ならではの視点かもしれない。 例えば、フリーターやニートのような人間は、何も最近にはじまったことではない、というものから、自爆テロと特攻は人間の頭の働きからいえば、どちらも一緒というものまで色々出てくる。中には偏見・こだわり等を捨てじっくりと考えないと(受け入れられるかどうかは別として)理解できない指摘もかなりあるのではなかろうか。 つまりバカの壁を取払わねば、理解できない事柄がこの本の中には色々出てくる。 私が、とくに同感した部分は、仕事というものに対する考え方だ。「自分にあった仕事なんかない」。仕事というものは、社会に空いた穴であり、道に穴が空いていれば、そのまま放置しておくと、事故など起こす可能性があるから、そこを埋めてみる。それが仕事というものであって、自分に空いた穴が空いているはずだなんて考えるのはナンセンスだ、と。 穴を埋めると言うと、何か受動的に会社の中でただ歯車となって働いているのと似た様なイメージを持つ人もいるかもしれないが、私は全然違うと思う。なにか一連の仕事の中で、ただ歯車となって働いている場合は、重要な役どころがあるかもしれないが、これこそ受動的な働きであるに対して、社会に空いた穴を埋めるという仕事のあり方は、よっぽど積極的であると思う。 養老氏の上のような仕事観に同感できるというと、お前は将来が見える年代となったので、せいぜい諦観というかあきらめに近い境地でそう思えるようになっただけだ、と言われるかもしれない。夢ある若い世代から非難されそうだが、でもどういわれようと、最近私自身実際仕事とはそういうものだと感じるようになっている。 また養老氏の雑用のススメもよくわかる。人がいやがるような雑用(とはいえ自分の仕事の多少の障害となっているような雑用)を、雑用と思わず、要領の悪い奴だと上司などに言われようが、進んで一生懸命(半端なやり方でなく)やり遂げるというのは、成長する上で重要なことだと思う。そもそもこういう事を避けている人に碌な人物はいないように思う。 また仕事にしっかりとした原則をもっていない人は、プロとはいえない、というのも同感である。養老氏もいうように職業倫理というものはそういうものだろう。「・・・の時の責任はどうしますか」と聞かれ「社に戻って相談します」とか答えるようでは確かに無責任で一人前とは言えない。問題対処の原則や、知りえた限りの程度での責任区分を認識した上で、その上で更なる問題が生じた場合、それに対して自分で責任をとる覚悟がなくて、プロといえる訳がない。 私の場合、個人で仕事をやっているから(父なども仕事から引退しているから)、自分のやった仕事に対しては、ほぼ一切の責任を自分で負っている。しかるに最近は高給取りほど、責任回避的人間が増えたようで、私も「今の日本社会には明らかに問題がある」と思う。 また養老氏の他の本でも随所に出てくる、脳化、都市化の問題も益々、最近顕著になってきていると思う。神戸の大震災で、戦争も体験した人々の中に、震災も戦争も同じような災害を蒙ったが、今度の震災の方が心の傷は重かったという人が沢山いた。なぜかといえば、戦争はアメリカが悪い、東条英樹が悪いなんて言えたけど、震災は誰が悪いともいえないから、というのだ。これを養老氏は、都市化のせいだと指摘します。 天災が極めて多い日本では、こういう時、昔は「仕方がない」などと言って諦め「水に流して」、心気一転頑張ったものだが、都市化の進展とともに、人間は物事を人のせいにしなくてはならなくなった。都市にあるほとんどのものが自然ではなく人工物なので、人に責任を転嫁できる社会だからだ。そこで具合が悪くなれば、誰か他の人間のせいにする。教養ある人ならばそこに気付くかというと、逆に(相手をいい負かす自信からか)その時々の都合のいい理屈をこねる人が多く見受けられる。考えさせられる事柄だ。 この本は、『バカの壁』と『死の壁』の既刊の2冊を書いた後、色々相談や質問を受けることになり、それに対して答える形で出来上がった作品だという。それだけに上記に書いた事以外にも、「男女の問題」「子供の問題」「戦争責任の問題」「靖国の問題」「若者の問題」「金の問題」「心の問題」「本気の問題」等等、多数の話が出てくる。初めて養老氏の本を読む人は、ちょっと面食らうかもしれない。でも読み進めていくうちに、きっと自分の頭が柔軟になっているのに気付くのではないでしょうか。 お薦めの一冊です。 |
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