このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
『物書同心居眠り紋蔵−向井帯刀の発心』 (佐藤雅美著・講談社) |
佐藤雅美氏も私の大好きな作家の一人である。このシリーズもこの本発刊以前の既刊は全て読んでいる。ただし読んでいて、「あれ、前作は紋蔵さんが定町廻り同心になった時の話だったか、前作読んでからもうかなり経つな〜」という感じがした。 今回は前作末にもあったように、紋蔵はまた以前の例繰方に戻されている。表紙の帯紙にも書いてあるが、今回は同じ南町奉行所の中に、不倶戴天の敵ともいえる吟味方与力・黒川静右衛門という人物が登場する。逆恨みして、その立場を利用して、紋蔵に卑怯な仕打ちを何度も行うのだ。私も会社時代、上司にこのような人間がいたので、その人を思い出し姿が重なった。そのせいか“この野郎”と、思わず口に出しながら読んだりした。 まあ今回も少し粗筋を書いておこう。 前作(?)では、長男の紋太郎が北の与力川尻久兵衛の婿養子に、また長女の稲が剣持鉄三郎と名を変えた蜂屋鉄五郎の次男鉄哉の嫁になっている。今回は次男の紋次郎が山田次郎左衛門の養子となり、それに伴い紋蔵の家で実の子同然に育てられていた文吉が紋蔵の代わりに家を継がされることを拒み、家を飛び出す。そして演劇界を背後で牛耳る顔役の不動岩五郎のもとに行く。また次女麦にも、紋蔵の義父の茶問屋に養子として入るために婿をとる話が出てくる。 紋次郎が、山田次郎左衛門の養子となると、今までは学問ばかりに励んでいた紋次郎も剣術の稽古をしないといけなくなり、奉行所の師弟のための道場へ通う。しかしそこで嫌がらせの苛めを受ける。与力黒川静右衛門の息子惣太郎などを中心とする連中であった。道場へ寄ってそんな姿を目にした文吉は、惣太郎らを帰り道で待ち、紋次郎をいたぶらないよう要請するが取り合わないので、後ろから丸太で殴って倒し逃げる。 既に紋蔵の家を飛び出した後での事件ではあったし、子供同士の喧嘩、それも惣太郎の紋次郎へのいじめかたら始まった事柄であったが、これ以降吟味方与力は黒川静右衛門は逆恨みして、紋蔵に何かと当たる。黒川は一度は、紋蔵に助けてもらったりもするのだが、それでもその後息子の惣太郎が大怪我する事件が起きると、文吉の仕業と決め付け、行動に出る。結局、自分の家のごたごたに起因する事件だったとわかるのだが、その後も執拗に、紋蔵に仕返ししようとする。 最後の話で表題ともなっている「向井帯刀の発心」では、数奇な運命で、盗賊の子供から7百石の旗本となった男の話が出てくる。音羽でこの旗本が起こした馬の乱入事件を調べ、紋蔵は面識を得るが、彼の屋敷で紋蔵が偶然目にした牧渓(めっけい)の水墨画が契機に、その水墨画が昔栃木の豪商から盗まれた絵であることが判明。その後向井帯刀が突然出家し別れの挨拶のために紋蔵の家にやってくる。そしてその後、秘められた事情を紋蔵に手紙で知らせる。 紋蔵は、絵を鑑定してもらった赤松老人以外、向井帯刀の事については誰にもしゃべられなかった。その後、紋蔵は養父母の家を放火するという事件で勘太という少年を新たに自分の家に引き取る。しかしこの影響が思わぬ方向に展開。勘太のかつての養父母が惨殺される事件が置き、黒川静右衛門は、事件の背後には、向井帯刀の突然の出家との間に、紋蔵や赤松老人を通して繋がっていると考える。紋蔵自身は当初はそんな馬鹿なと思っていたが、ひょんなことから事件は、向井帯刀の主従へと結びついていく。紋蔵は、窮地に陥るがいかに!・・・・ 今回も、思い通りにならず難題に振り回される紋蔵という、佐藤氏お得意のスタイルではあるが、全然マンネリ色もなく、非常に面白い作品に仕上がっている。居眠り紋蔵ファン、佐藤雅美ファン必読の1冊です。勿論、それ以外の皆さんにもお薦めしたい1冊でもあります。 |
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