このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

書評(平成19年09月23日)

『生命の不思議』
(柳澤桂子著・集英社文庫)

  柳澤桂子さんは、私が科学関係のエッセイストの中では、最近気に入っている一人だ。私は血液型O型に典型的な?大まかな性格なので、(自然は好きであるが)繊細な感覚には欠け、それだけに繊細な感覚をもった優しい女性の文章を読むと、何というかよく惚れてしまう。レイチェル・カーソンもそうだし、私が採り上げる本は女性のがかなり占めるが、幾分その傾向も影響しているように思う。柳澤氏も、私より24歳も年上のおばあちゃんであるが、かなり好きである。このブログでも『二重らせんの私』ほか何冊か紹介している。

 前半は、第1章が「病床で見た自然の驚異」、第2章が「病気と痛みの不思議」。私は、十二指腸潰瘍で一時期悩まされたが、慢性的なものでなく、今はほとんど普通である。大病をしたことがない。病気のの人の苦しみや気持ちは正直言ってよくわからない。「病人の挨拶」のアドバイスや、中心静脈栄養などによる寝たきりの生活、介護に関する意見・提案なども、かなり考えさせられ、勉強になった。

 また尊厳死について述べたところで、尊厳死はdeath with dignityの訳であり、つまり威厳をもって死ぬことを意味することだが、「威厳をもって生きてこなかった人が、死ぬときにだけ威厳をもってみたところでどうということもないのではなかろうか。威厳をもって死ぬよりは、質の高い生き方をすることが大切なことのように思われる。」常に私自身思っていることであり、全くもって同感だ。

 後半は、第Ⅲ章「遺伝の不思議」、第4章「生の不思議」だが、このあたりは生命科学の本を私は科学関係の本の中でも比較的多く読むので、復習のような感じで読ませていただいた。こんな歳になると、覚えているようで忘れていなくとも勘違いしていることが多い。たとえばDNAの塩基数を約30億と覚えていたが、間違いで塩基対が約30億で、数となると2倍の約60億、ゲノムという言葉も、生殖細胞のもつDNAのセットであり、勘違いしていた。体細胞ではゲノム数は2倍になるわけだ。
 相同染色体、対立遺伝子、遺伝子座、多型性(ポリモルフィズム)、テロメア及びとテロメアーゼなども、定義や意味が頭の中であいまいになっていたり混交し誤解したりしていたが、これを機に厳密に記憶し直した。

 文庫本なので、寝転がって気軽に読め比較的短時間で読めた。
 上でちょっと紹介した以外にも、事故などで四肢のどこかを切断した人が、ない手足をあるように感じる「幻肢」という興味深い話や、著者自身が体験した神秘体験の話、生命科学者の目から見た種々の体験談、宇宙にまで考えを及ぼし地球に生きている私達の1日1日が奇跡であることを述べた話など、興味深いだけでなく、生命というものに畏敬と感動を持って語られるエッセイに惹きつけられてしまう。私自身また他の著書も読んでみたくなっている。

 お薦めの1冊です。
(参考)この本は、もともとはNHKの方(日本放送出版協会)から出版されているので、そちらで読んでもいいのではないか。

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