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書評(平成19年09月28日)

『生命の暗号−あなたの遺伝子が目覚めるとき』
(村上和雄著・サンマーク文庫)

 著者は、筑波大学名誉教授だそうです。私は今回はじめて知った方だが、世界的に高名な学者のようです。1983年高血圧の黒幕である酵素「ヒト・レニン」の遺伝子解読に成功、その後もレニンを中心テーマに研究を続け、それを応用した高血圧マウス、低血圧マウスなどを作ってみたり、ヒト・レニンの構造を解明したり、世界から注目される科学者の一人となっているそうです。

 ちょっとまた手抜きだが、参考のためAmazon.co.jpに載っていた著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)を、転載しておこう。
 「村上 和雄   1936年生まれ。筑波大学名誉教授。1963年京都大学大学院農学研究科農芸化学専攻、博士課程修了。同年米国オレゴン医科大学研究員、1968年京都大学農学部助手。1976年バンダビルト大学医学部助教授。1978年筑波大学応用生物化学系教授となり遺伝子の研究に取り組む。1983年高血圧の黒幕である酵素「レニン」の遺伝子解読に成功、世界的な業績として注目を集める。1994年より先端学際領域研究(TARA)センター長を務めた。1996年日本学士院賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです) 」

 私は読んでいて、生命科学の本というより、生命の暗号(遺伝子)の研究から得られた、ノウハウ的な人生訓の本のようなイメージを受けた。それは1つにはプロローグを除いた各章ごとに、要約が載っており、後々振り返って読むには便利に出来ているからだ。
 以下この本のあらましなども、これを参考に書かせてもらう。

 遺伝子には「こういう時には働け、こういう時には眠っていろ」という指令情報があり、それを遺伝子のON/OFという。ONにした方がいい遺伝子と、OFFにした方がいい遺伝子とがある。遺伝子ONの秘訣は、物事を良い方向で考えること、すなわち何事もプラス発想で考えることだそうだ。人間や高等動物の遺伝子は膨大な情報を持ちながら、ほとんどはOFFの状態にあるという。人間の奇跡的な出来事も遺伝子の働きなしには起きることはないが、逆に言えば誰もが「奇跡人」の可能性をもって生まれてきていると指摘。
 環境の変化も、それまで眠っていた遺伝子が働き出す契機となることもあるようだ。

 気に入った言葉では、「失敗とは「失敗」を意識した時から始まる。」とか「基本的に遺伝子は老化しない。いくつになっても自分の才能を開花させる能力がある。」など。熱烈な思いは天に通じるという。遺伝子の働きを阻害するのは否定的な心である。あきらめずに続けることが、物事を成就する最大の秘訣だと述べる。
 中年になってしまった私のような人間には、勇気付けられる言葉である。

 また以前私も読んだことのある木村資生(中立的進化論で有名な方)の言葉を引用し、生き物が生まれる確率は「一億円の宝くじに百万遍連続して当たる」くらいすごいことであり、よって人間は生まれてきただけでも「偉業を成し遂げた」のである。生きているだけでも、「奇跡中の奇跡」と考え、感謝して前向きに生きることが大切だという。
 1に、志を高く持ち」と言い、2に、感謝して生きる、3にプラス発想をして生きる。これが著者が提案する生き方のようだ。

 また村上氏は、精巧な生命の設計図であり、そして生きているかぎり一秒たりとも休まず働くこの遺伝子というものの不思議さを思うとき、人類の能力を遥かに超えたサムシング・グレート(偉大な何者か)を感じずにはいられないという。それは親の親の・・・・さかのぼって究極の「命の親」のような存在ではないかと、述べています。
 そして心と体は繋がっていて、死ねば体と一緒に心も滅ぶが、魂は無意識と繋がっていてサムシング・グレートに通じている。そのように著者は、心、体、魂、サムシング・グレートの関係を想像し述べています。なかなか興味深い考えだと思います。

 勿論、上に述べたこと以外にも色々参考になることが出てきます。一気に読めば、半日もあれば読める本です。最初の方で述べたように、先人の経験や言葉などから得る人生訓とは違った、生命科学の観点から考えるいい人生訓の本ともいえます。お薦めの1冊です。 

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