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     私たちの手で北勢線を残そう!
 狭軌鉄道近代化の考察(鉄道ジャーナル12月号掲載記事) 

 狭軌鉄道近代化の考察                  白井昭(大井川鐵道OB)

 従来、762mm軌間の鉄道はスピードアップや近代化が難しく都市鉄道としては不適当と考えられ、
既存線の近代化も大幅には進まないまま現在に至っている。
 これはかつてはほぼ妥当なことであったが、今では技術の進歩にあわせて見直す必要が出てきて
いる。
 北勢線の例では、現用の電車が生まれてから30年間の技術進歩により、車両の軽量化、電子化に
よるフレキシブルな制御の導入などがあるが、762mm軌間にとって革命的な変化はインダクションモ
ーターの普及である。これにより、たんに保守の容易化だけでなく、根本的に出力の向上、列車性能の
大幅な向上が可能となった。これは以前では全く考えられないことであった。
 
 軽量経済鉄道への志向
 一方、北勢線の場合、1067mmへの改軌工事は用地買収、橋梁など多くの工事に大きな費用を要し、
その財源調達も至難である。しかし北勢線程度の輸送量で果たしてフル規格の鉄道が必要であろうか、
スピードも新交通システム程度でよいのではないか。
 今や日本を含め世界的に経済的な都市交通が求められ、小型地下鉄、新交通、LRTなどの採用やヘ
ビーレールのLRT化など(富山、岡山など)が進められ、シドニーのモノレールのようにより簡易なものま
で現れている。
 狭軌鉄道でも近代化されれば、これらと同様に新しい軽量輸送機関として役立つことができる。
 
 762mm鉄道の近代化
 北勢線の経営を受託している三岐鉄道では、すでに軌道・電気などの施設の近代化、自動改札など
営業や情報システムなど全体的な近代化を進めようとしており、さらに車両を近代化すれば「新しい狭
軌鉄道としてLRT、新交通に匹敵する機能を果たすことができる。
 今まで世界の750・762・800mm軌間鉄道のうち近代化されているのは山岳鉄道が多く、一般鉄
道ではスイスのバルデンブルガー鉄道の新車(750mm軌間)が75km/hで走っている程度で、かつ
て台湾の台東線(762mm)も75km/hで走っていた。
 しかし、交流モーター電車の技術は日本のお家芸で、狭軌の高性能車を日本独自のものとして開発
すればよく、これは十分可能762mm軌間での交流モーターの設計・製作は容易である。

 現行規格への整合
 762mm軌間鉄道の車両は重量制限から高性能化が困難とされてきたが、交流モーターと軽量化技
術の進歩により今や橋梁・軌道など既存の施設に合わせた新鋭車の開発が可能である。
 北勢線のモデルとして、オールM、3編成、負担荷重の関係から各車2個モーターとし、加速は1.0〜
3.5km/h/s可変、速度は75km/hとする。
 現行編成は加速が1km/h/sクラスでバスより遅い時代遅れのものとなっており、現行の直流モータ
ー車では「のろい、狭い、乗り心地不良」などの不満の解決は困難である。同線の特色として急曲線が
多く、欧米のトラムと同様、高加速が運行上のカギとなっている。
 車輌の重量は現行橋梁にあわせ、車両限界はスイス、台東線を参考に車体幅2,300mm程度とする
が重心には留意し、カントなどは見直しを行う。
 今後のスピードアップについては、長年にわたる国交省と各鉄道の協力による1067mm軌間鉄道で
の優れた手法があり、これまた日本のお家芸である。
 
 車両のコストダウン
 狭軌電車は日本のLRTやトラムと同様、量産が望めないのでコストダウンに努める要があり、工夫が
望まれる。いまや高性能ハイテク車両でもコストダウンは可能で、補機はトラムの1両分を3両に配分
できるのでコスト、重量、艤装上有利であり、北勢線は低床式でないので一層有利である。

 フレキシブル制御
 空調装置の運転は力行とのタイムシェアリングとし、加速中は送風のみ制御する。これは容易なこと
であるが、電力施設の改良にフレキシブルに対応できる。
 回生ブレーキ電力は冷暖房、バッテリへ充当する。その他すべてのフレキシブルコントロールは最近
の電子技術の進歩により安価で多様な制御を可能としている。

 費用の捻出
 改軌ほどではないが、電車の新造は小さな鉄道にとっては大きな負担となる。
 しかし整流子モーターの現有車はいずれ置き換えが必要で、時間をかけて1本ずつ進めること、とくに
1本目については研究・実績とも地元の方を含む大方のご意見を十分取り入れる要がある。
 また、狭軌鉄道の再生という基本的改革要素が大きいだけに、国レベルによる技術的、財政的支援を
御検討願えればありがたいことである。本件は欧米のフォローでなく、都市鉄道として日本独自の取り
組みとなる。
 投資の回収には、電車の近代化によるかなりな補修人件費の減少も見込まれる。
 以上は一つの考察であり、具体的には関係官庁のリードのもとに、地元、三岐鉄道、さらにはメーカー
各位の御尽力に待つことになる。
 しかし、この新性能電車はいずれは必ず必要となるものだけに、その実現は歴史的必然であり、新性
能車出現後にはバスより活発な運転と格段の差の乗り心地、空調、モダンで広い車体などから好評を博し、
将来に希望を抱いてムダな投資との批判を打ち消すものと思う。そして多くのLRTの実績が示すように、
客離れ抑制に役立ち、762mm鉄道再生の一つのシンボルとなり得るであろう。
 岡山の新車の場合は地元をあげての熱意により実現させ、ローレル賞を受けているが、北勢線もこれ
に負けないよう研究、活動してほしいと願っている。

 まとめ
 今までの762mm軌間鉄道の近代化は無理との概念を捨て、今や日本の技術によれば新しい期待と
希望を持ち得ることを御理解賜れば幸いである。もちろん762mm特有の制限は残るものの、新交通、
LRT程度には十分お役に立つこと、そしてその活用を図るべきことを提案したい。
 私はかつてパノラマカーやアプト式鉄道の開発に取り組んできたが、新性能の狭軌電車はそれ以上に
地元の方々のお役に立つものと考えている。
 北勢線再生を一つのチャンスととらえ、各位の御検討を賜るようお願い申し上げます。 

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