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   私たちの手で北勢線を残そう!

  12月1日 三岐鉄道の事例発表 
福井県勝山市で行われた「鉄道存続のまちサミットINかつやま」で三岐鉄道より発表された文書です。
(ソフトでテキスト化しています。チェックはしていますが、チェック漏れもあるかもしれないので御了承下さい。
 気づかれた方は御一報下さい。なお写真は割愛させて頂きました。)


          ローカル鉄道の存続
                                  三岐鉄道
(はじめに)
 私ごとき若輩者が、このような場でお話をさせていただくこと事態が、場違いなようでまた役不足も
よい所と反省する所存であります。
 そもそも事の始まりは、10月始めに勝山市の地域交通課の山田課長様より1本のお電話を頂戴した
ことから、私の苦悩が始まったわけですが、勝山市がいま取り組んでおられます「えちぜん鉄道」の再
運行への熱意と我が社が取り組んでおります「北勢線問題」と符合しています事も踏まえ、恥を覚悟で
お引き受けさせていただくことにしました。
 当サミットは「鉄道の社会資本としての必要性と重要性」がテーマであります。
 文化は人の流れがあって創り出されるものであり、その流れは1つに川であったり、また1つには道
であります。
 川は、メソポタミア文明や黄河文明を生み出し、川や道はそんな文化を地区から地域へ拡大し、社会
を構成する。その川や道で物を運ぶ交通手段として、船や車が用いられその一つが鉄道であります。
 鉄道は、大量に物や人を運ぶ事が出来るだけでなく、「都市づくり」や環境にやさしい交通手段とし
てひとつの要素がある公共交通機関であります。
 日本の鉄道事業全体を見ましても、東京や大阪等の大都市を結ぶJR(新幹線)や大都市近郊を取り
巻く私鉄大手があり、地方を結ぶ私どもローカル鉄道が「日本の文化や街」を形成してきた要因である
といっても過言でないと思われます。
 しかし、昭和60年代以降、車(自家用車)社会の普及や少子化により鉄道利用客が減少し、それに
拍車をかけたのが「規制緩和」という大きな波のうねりで、過疎地を運行している大手私鉄の支線や
JRの特定地方にある支線を含む、私どものような中小私鉄は、廃止や縮小の選択肢しかない状況であ
ります。
 これに対し、大都市の近郊外線から都市中心部への運行を行っている大手私鉄は、連結車両数を増結
しても運びきれない状況であることから、近郊を離れた基線の赤字をカバーし、鉄道全体で存続を維持
しているのが現状であります。しかしこの状況も数年前まででここにいたって、本体の旅客輸送も対前
年を大きく割れ込んで、特に定期旅客(通勤・通学)の利用が目減りし、ついに支線の廃止という禁断
の実に手を染めるハメの情勢であります。
 私の勤務する三岐鉄道の状況は、後ほど詳しくお話させていただくとして、開業以来.戦争という大き
な時代波の中で、大手私鉄への統合を免れて細々ではありますが単独経営を行えるのも、貨物輸送があ
るためであり、また経営陣がいち早くコスト削減とした鉄道輸送へのテコ入れを行い、旅客輸送対策に
力を傾注してきたからでもあります。
 また、当社のとなりにある近鉄さんの支線である北勢線が、今年廃止届けを出され、地元住民の強い
要望で当社が譲渡譲受することになり、この点も触れながらローカル鉄道の存続について、お話をさせ
ていただきたいと思います。


(過疎地域の鉄道)
 さて三岐鉄道について、紹介をしながら話を進めていきたいと思います。
 当社が運行している地域環境は、三重県の北勢地方鈴鹿山脈と養老山地の挟間にあり、伊勢湾の付け
根にあたる30万人都市(四日市市)から鈴鹿山脈の裾野にある1万人の町(藤原町)までの1市5町
を繋ぐ約27.6キロで鉄道事業を運営しております。
 旅客輸送は、大手の近鉄さんの2路線(湯ノ山線・北勢緑)に挟まれ、1日の乗降客は約10,000人
に満たない状況で、典型的な赤字路線であります。
 近鉄の支線(2路線)を含め3路線は、相互に10キロと隔てておらず最短キロが2キロ以内という
沿線事情の中で、四日市市方面や名古屋方面へ通勤・通学される利用客を輸送するというほぼ似通った
条件で運営していますが、現状は全く違った様相を呈しております。
 鈴鹿山脈よりにある湯ノ山緑は、近鉄四日市駅より一説に秘境といわれる湯ノ山温泉郷に結ぶ15.4
キロの観光路線でありますし、沿線軒は三滝団地や川島団地、桜花台などの大きな団地があり、四日市
市街地への通勤・通学客を運ぶという近鉄さんの支線の中でも稼ぎ頭の輸送量で、線路の軌間も広軌と
いう名古屋本線並みの支線であり、1日の乗降客は約40,000人近くの状況で、3路線の中でも1等賞
の成績を上げている訳です。
 一方養老山地の裾野を走っている北勢緑は、桑名市(西桑名駅)から北勢町(阿下喜駅)までの20.4
キロ距離を約1時間以上かけて、桑貞地区の集落を結ぶ生活路線として運行をする路線で、沿線には大山
田団地や広見ケ丘・西桑名ネオポリスなど大きな団地を抱えている路線です。旅客の多くは名古屋市内へ
の通勤や買い物客が多いのですが、線路の軌間が特殊狭軌という条件のため速度が上げられず、沿線を平
行して走っているバスに旅客を奪われている情勢で、最近では利用客の8割が通学客ということから、収
入が大きく落ち込み、近鉄さんより今年3月に廃線届けが出されてしまったことは周知の通りであります。
 これに対して三岐鉄道では、鈴鹿山脈の藤原岳で採取される石灰岩を、太平洋セメント藤原工場で、
セメントとして加工・生産され、それを運ぶことを主目的とした鉄道であり、貨物輸送は、JR富田駅
を経由して各SSへ輸送しており、また旅客輸送は、近鉄富田駅へ昭和45年に接続し、旅客の利優性を
考慮したことにより通勤・通学の定期客の多い地方都市型の鉄道で、貨物・旅客併用の他に類を見ない
特異なローカル鉄道であります。
 前述のように隣接する3つのローカル鉄道ですら、存続か・廃止か、はたまた存続するにはどのような施
策が必要なのか、利用客によっては意見が異なりますが、大きく分けて5つ程の要望になると思われます。


(利用客の要望と施策)
 利用客の要望は、「運賃を安くしろ」「列車の接続をよくしろ」「スピードは速く」「列車の本数を多
くしろ」「車両の快適性(空調設備)」この5つの意見に集約されると思います。
 鉄道事業者は、JR・大手私鉄・中小私鉄・第3セクターを問わず、旅客の利便性・快適性を追求し、
自社で出来る最大限の対策を推進してきまじたが、昭和60年程から大手でも利用客の減少傾向が始ま
り、現在に至っても歯止めの利かない、拍車のかかった状態で推移しています。
 その最たる原因は、マイカーの普及や少子化および不景気における各社の雇用形態の変化であると言
われております。
 そんなことは地方の過疎地区を運行している中小鉄道は、もっと以前から始まっており、可能な限り
対策は講じても「鉄道離れ」は進行し、中小鉄道は衰退の一途をたどっている訳であります。
 三岐鉄道の輸送人員は、昭和49年を100とした時に平成13年には65にまで落ち込んでおります。し
かしこの落ち込みも全国のローカル鉄道全体を見ると最小限にとどまっているようであります。
 これも沿線への宅地開発・学校開校誘致・近鉄線への接続という施策が反映されたものであり、なお
かつバブル時期には、三重県北勢地区の団地開発に支えられた面が大きかったと思われます。
 前述したように旅客の要望で運賃問題は、当社の隣接緑に大手近鉄があり、普通運賃は比較しても遜
色ないのですが、定期運賃において、特に家庭生活に直結する通学定期運賃が2倍以上の料金であるこ
とから「日本一高い」といわれる所以であります。
 その施策として、学生客の利便性を考慮し「通学学期定期」を販売しました。これは学生客が毎月定
期の期限を気にしなくても毎学期ことに定期を購入していただくものであり、料金もいままでの購入方
法より安く提供でき、利用度は拡大しております。
 つぎに、列車の接続でありますが、昭和45年7月にそれまでの国鉄(現在のJR)富田駅から近鉄富
田駅まで歩いて(約8分〉乗り換えていたのを、手前の三岐朝明(現在信号所〉駅より新線を引き近鉄
名古屋本線へ接続しました。
 北勢線は、桑名市街地まで入線をしていますが、近鉄桑名駅・併設するJR桑名駅とは200m程離れた
所に西桑名駅があり、名古屋方面や四日市方面への通勤客に不便なことから敬遠されるのも一因であり
ます。そのためリニューアルし、近鉄・JR桑名駅へ線路を延長し、総合駅とすることにより旅客の利
便性を高める.必要があります。
 車両の快適性(空調設備)について、三岐鉄道は西武鉄道の冷房卓両を平成元年より随時導入し、客
車全20両中18両が完了しました。なおかつ旅客に対しては快適性を提供できるよう非冷房車両は、冷
房車両の検修か異常時以外は、夏期に運用せず冷房化100%で対応しています。
 北勢線は、7編成(211両)で運用していますが、全車両非冷房車両であり、敬遠される要因となっ
ています。しかし冷房車両を導入するにしても特殊狭軌で軽量車両のため、特別に新造しなければなら
ずコストがかかりすぎることから、将来性を考慮すると軌間の改軌を先行したのちでないと冷房化は厳
しい状況であります。
 いままで述べてきました様に利用客の快適性を追求し、改善努力を行ってきましたが、輸送減少傾向
に歯止めがかからない実状であります。


(発想の転換)
 ローカル鉄道の施策は、旅客輸送減少が収入に影響することから存続するためにコスト削減をせざる
を得ず、旅客列車ワンマン化、駅の無人化など経営の効率化を行うことが常であります。そのことで列
車車内の秩序が崩れたり、駅が殺風景になったりで、鉄道から旅客が離れていく傾向に拍車がかかり衰
退して行くのであります。駅は旅客の乗降する場所でありますが、そればかりでなく地域のコミュニケ
ーションの場でもあるのです。
 三岐鉄道では、昭和39年より駅業務を社員の家族やOB社員などに委託し、駅を委託化することによ
り地域との接点を多くし、駅員を通じて情報交換の場であったり、女性駅長と親しまれ老人や女性が安
心して利用できる場所を提供しています。また女性の心遣いが行き届き、清掃された綺麗なトイレや花
のある駅として親しまれています。現在全駅15駅中12駅が委託駅で、社員配置駅は2駅、無人駅は1
駅のみであります。
 また、三岐鉄道は旅客列車ワンマン化を行っていますが、2両編成・3両編成とも全トビラを開閉し
旅客に対しては通常の列車扱いと同様のため、他社が行っているワンマン列車とは異なっています。昭
和61年には、大安駅を図書館と併設し、土休日には図書館を利用される方で住民が集まり、駅が単に
電車に乗る場から情報の得られる魅力ある場に変貌しつつあり、大安駅の乗客が徐々にではありますが
伸びてきています.
 三岐鉄道が、視察に見える方から駅前の駐車場・駐輪場を見て「駐車(駈輸)料金」を尋ねられます
が、当社は昭和61年から全駅前に無料駐車場を設置、自家用車で駅まで釆ていただきそこから電車に
乗り換えて通勤していただくパーク&ライド施策を推進しております。また最近では道路交通法が改正
されたことから家族に駅まで送ってもらい駅から通勤されるキッス&ライドが浸透しつつあり、利用客
の減少傾向に若干歯止めがかかってきたようであります。
 昨年(平成13年)は、当社の70周年として西藤原駅に開業時に走っていたSLの静態保存とその8分
の1のミニSLを駅前広場で走らせ、無料で時間を忘れて遊んでもらえるウィステリア鉄道を開業し、
開業日には約1,500人以上の来訪者が見えて、地元の方から町の活性化に繋がると喜んでいただきまし
た。目算が外れたのは、電車よりマイカーでの来訪者が多かったことであります。
 ウィステリア鉄道は、毎週日曜日運行をし、団体の利用申し込みのあったときのみ平日でも運行して
います。そうしたことから開業以来沿線の小学校や幼椎園が、遠足の候補地として鉄道を利用されるこ
とで旅客は増加傾向に転じております。また今年は駅舎をSL型に改築し、駅に訪れる子どもさんに親
しんでもらう試みにも取り組んでおります。
 さらに今年(平成14年)には、暁学園前駅の2階部分に「鉄道おもちゃ屋」をオープンして、お母
さんが近くでコーヒーを飲んでいる間、子供がプラレールで遊べるという場を提供しました。
 今建設中ではありますが丹生川駅に鉄道貨車博物館を計画し、1駅1つの企画(展示場)をめざし、
その地域のコミュニケーションの場とした施策を地方のローカル鉄道が発信し、鉄道のイメージを変え
ていきたい。成功するか・失敗するかは後世の人々の判断にゆだねることになります。


(自転車の持ち込みOK)
 自動車と鉄道との大きな隔たりは、自動車は自宅から会社(学校)という目的地にまっすぐ行けます
が、鉄道は駅から駅ということ、目的地や自宅が駅より離れている場合はやはり利便性に欠けてしまう
ことであります。
 実際鉄道利用者でも駅に近い方が多く、2キロ以上離れているとどうしても自動車に頼ってしまう、
そこで三岐鉄道は、自宅から自転車で駅に来てもらい自転車を電車に乗せて駅から目的地までいけたら
と、平成9年から利用客の閑散時に電車の中に自転車を自由に持ち込むことが出来る(サイクルパス)
としました。
 この制度を開始したときは、利用客が多すぎて1個列車に50人も自転車を持ち込んだらどうしよう
とか、電車の揺れで自転車が転びケガ人がでたらとか、またホーム上から自転車が転落したらというジ
レンマもありましたが、導入以降大きなトラブルもなく、利用客は徐々に増えてきております。
 しかも最近環境問題でNOx法の改正に伴い排ガス規制が強化され、マイカーから鉄道への流れが大
きな世論となって鉄道事業者に追い風となった時、自宅から駅・駅から勤務地へ自転車の利用者が増
えサイクルパスという施策が、今後鉄道の復建に一役買うかも知れません。


(北勢線の存続)
 今まで、随所で述べてきましたが近鉄北勢線の存続については、近鉄さんより2年程以前から廃止の
方針が出され、大勢は「バス運行への転換」としてきました。
 しかし、平成14年3月28日に近鉄さんより中部運輸局へ廃止届けが出されて以降、地元自治体の動
きが活発になり、「三岐鉄道への運行委託」の方向が急浮上してきました。
 三岐鉄道としては、運行を引き受ける意志は毛頭なく固辞してきましたが、地元をはじめとする広域
連合の強力な要請により、仮に三岐鉄道が引き受けるには「北勢線がどうあるべきか」とした、鉄道と
して存続するための条件の提示が求められ、他のローカル鉄道の状況を踏まえ、厳しい条件を提示いた
しました。
 その条件とは、北勢緑を存続させるには延命的措置ではなくリニューアル的存続の施策を県・自治体
が行うこと。この条件は、相当な資金と時間が必要であり、地元自治体が容認できるものとは思っても
いませんでした。しかし6月7日に地元広域連合より、条件を受け入れることを前提とし県知事に「鉄
道での存続」の要望書を提出されました。
 その背景には、学校関係者を初めとし、北勢緑利用者からの要望と3年後の合併問題が大きな要素と
なったことが推測されますが、如何せん北勢線の状況が利用客にとって「利優性や快通性」から見ても
厳しいものがあります。
 三岐鉄道は、「北勢緑の運行委託」をすることが、将来、三重県北勢地方の街づくりのお手伝いする
助けとなればと検討することに決定しました。


(地元との協調施策)
 今まで述べてきた施策は、衰退しつつある小さなローかレ鉄道ではたかがしれたものであり、一時の
延命措置でしかないめかもしれません。
 ローカル鉄道を存続てしいくためには、変化に対応できる思い切った施策が必要不可欠であり、
 しかし自動車に対応できる施策や経済構造、小子化・高齢化に対応できる施策を考えると新会社を設
立するほどの莫大な資金が必要であり、小さな鉄道では莫大な資金投入は無理なため、延命措置の施策
しか取れないのであります。
 延命措置は、所詮先が見えた抵抗でしかないのであります。鉄道を根本から見直すには、地元の方々
の合意は勿論でありますが、国・県・自治体が、環境・エネルギー・高齢化社会政策の観点として交通
政策を見直す強力な公的支援が必要不可欠であります。
 今当社が抱えています北勢線問題は、今後のローカル鉄道を再生していくモデルとなる可能性を秘め
た問題であります。
 それは大都市型の大手私鉄の支線と地方都市型鉄道では経営基盤が違い、ローカル線に対するスタン
スとも異なってきます。そこを守らなくてはダメな地方鉄道と、本線中心に守りきらなければならない
大手私鉄とは、経営方針は必然的に違ってくるし、地元に対する対応の仕方も異なり、微妙な温度差が
生ずると思います。いずれにしても地域との関係や住民の皆様の協調が鉄道には必要であります。
 三岐鉄道が今運行できるのは、沿線1市5町の協力により出来るのであって、大安駅の図書館併設は
大安町、保々駅のパーク&ライド設備は四日市市、西藤原駅のウイステリア鉄道は藤原町と全て地元自
治体の協力のおかげであると感謝しております。また施設・設備の近代化への推進は、国・県の補助が
必要であります。
 いま沿線住民から求められるのは、環境にやさしい社会であり、利便性の高い生活であります。その
欲求にこたえて経営基盤を揺るがすことなく、公共交通機関としてのローカル鉄道を存続させるには、
鉄道事業者としての経営努力と同時に、国・県・自治体・住民の協力によって実現するものと考えます。

 
 12月1日 「鉄道存続のまちサミットINかつやま」での資料より

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