このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
マンガ逍遙
10.「MASTERキートン」 勝鹿北星・作/浦沢直樹・画
小学館・刊 全18巻
初出 小学館 ビックコミックオリジナル S63
さて、、、実は今までの回は全て第2回掲載前後の時期に題名と初出だけ書き溜めしているのですが、このコーナー、ここまで持つのでしょうか(笑)。
↑ということを約1年前に書いたのですが、、、よくもまあ飽きもせずここまで持ったものです。多少の感慨を持って今回の紹介と行きましょう。
今回の紹介は私が道を踏み外しかけたきっかけとなった考古学マンガですね。とはいえ、日本のような徒弟社会型の考古学実情紹介とか、そういったどうでもいい(だいいちマンガにするとおもしろくない)舞台ではなく、ミステリー要素の強い、謎解き型の歴史と軍事知識あふれる(こう書いてしまうとどうにもマニアがかった印象を与えがちですが)、一話読み切り活劇型のマンガです。
作者に恵まれたという実情もあるかとは思いますが、ただ物語の展開の痛快さ、コマ使いの丁寧さに感服するばかりです。浦沢氏の出世作はビックコミックの中でもスピリッツの方で連載されていたYAWARA!の方でしょうが、その後のスピリッツにおける連載と比べ、このオリジナル誌においては大人の夢の世界(これを言い出すと人それぞれに「夢」の範疇が異なるため、共感は得られにくいでしょうが)をひとつはミステリーという分野(MONSTER)で、またはテロリストと戦う軍事インストラクターという世界(パイナップルARMY)で。最近ではマンガを作り出した根本たるSF世界を再トレースし(PLUTO)、マンガで表現しうる夢の限界に挑もうとしています。
作者の試みは、過ぎ去りし夢に対するオマージュと言い換えることもできるでしょう。この作品における考古学者で、探偵で、元軍事教官という主人公平賀=太一=キートンの歩んだ道のりは、原作者が歩んだ「将来の自分」の遍歴かもしれませんし、また多くの人が共感しうる「ロマンを感じる世界」の最大公約数なのかもしれません。やたらにおもしろい寓話、歴史的事実、技術、あるいは人間模様。これらはその多くがオムニバスで語られることで、違った分野で読者の琴線に触れることが出来、また「どこかで聞いたような話」をマンガの舞台で再び持ち出すことによって、自分が知らないもうひとつの世界を読者に感じさせ、興奮させ、共感させることができるのだと私は思います。
以上の点でこの作品は非常におもしろいものであることは間違いありません。ただ、、、なんと言いますか、ここまで話を詰め込んで(しかもかなり洗練されたものに仕上げて)しまうとこれ以降の漫画家が作品を書くのに苦労するだろうな、とかよけいなお世話な事を考えてしまいます。それくらい、すばらしいものと考えてください。一抹の不安があるとすれば、作品内に女性受けはしない分野が多いかも、といったところくらいでしょうか。
当コーナーではこれから順次(気が向いたら)マンガ作品を紹介していきたいと思います。
基本姿勢としては、
・好きな作品しか紹介しない
・何度も読んだものしか紹介しない
・自分が所有している(つまり、それだけの価値があると自分で思っている)ものしか紹介しない
という三点を挙げます。
ま、紹介の九割九分は作品リスペクトになると思いますので、かるーい気持ちで読んで下さい。
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