このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

マンガ逍遙

.「バガボンド」 井上雄彦 原作・吉川英治「宮本武蔵」
 講談社・刊 1〜19(2004.4月現在)
 初出 講談社 モーニング H10〜 現在連載中
    
 もはや詳しい紹介をするまでもない、井上雄彦氏の傑作です。宮本武蔵の生涯を描いた吉川英治氏の良著をリニューアルし、更なる高みへと昇華させました。
 何が優れているのか、というところは大河ドラマの放送開始前後にいろいろと関連本が出されているので、ここでは抑えめにします。ここでは単に自分が感動した部分について述べていきたいと思います。
 私が特に感銘を受けたのは、1巻から13巻にかけて描かれている新免武蔵=宮本武蔵の成長物語です。まず1・2巻で沢庵和尚とおつうを通じて人の心を知り、3〜5巻で吉岡一門との対決で世の中の広さを知り、6〜8巻では宝蔵院胤舜との勝負で己のちっぽけさと弱さを学んでいます。
 順次物語を追って説明するという、ある意味ネタバレに近いことをやってしまいましたが、1つ1つの順序に現代の人間成長の過程にも重なるところがあり(現代では3年毎に突き当たる受験や就職などに区切りとなるべき壁があります)、その人格のステップアップを読者である私たち自身も順を追って感じることが出来ます(これが原作バージョンだと、姫路城時代に急激な人格的成長が行われてしまい、後の行程での求道者的武蔵像が嘘っぽく感じてしまいました。)。
 人間の成長を他人との関わりと自分の内面との対話で表現することは、オーソドックスであり、それ以外のどの手法よりも簡単に感情移入が出来ますが、妙に嘘っぽく感じさせたり、「気づく過程」が優等生過ぎたり、またはあまりにも気づかなさすぎたりしてしまいがちです。この作品での武蔵は実に自然に、人間っぽく成長していきます。
 佐々木小次郎編になって、作者はさらに難しい表現に入っていきます。感情の比較的平坦な(内面の描写がないため、そう感じざるを得ない)小次郎との関わりを通じて揺れ動く人々の感情とその人生を描こうとしています。まだ大きな山場が少なく、また小次郎自体の心的成長がメインとして描かれていないため、私はこの試みについて真贋見極めかねるところがありますが、はっきり言えば武蔵編だけでも買う価値は十分あります。作品を読みながら、ふと自分を振り返り考え、確認・発見できる何かがある、そんなマンガであると思います。

 追加:、、、、推薦文が書きづらい情勢になってきました。小次郎編、ゆったりしすぎています。闘う理由を求めて、相手の事情も鑑みたいのでしょうが、、。心的成長を一刀斎の言葉で言わせるのは卑怯では?


 当コーナーではこれから順次(気が向いたら)マンガ作品を紹介していきたいと思います。
 基本姿勢としては、
 ・好きな作品しか紹介しない
 ・何度も読んだものしか紹介しない
 ・自分が所有している(つまり、それだけの価値があると自分で思っている)ものしか紹介しない
 という三点を挙げます。
 ま、紹介の九割九分は作品リスペクトになると思いますので、かるーい気持ちで読んで下さい。


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