このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

マンガ逍遙

9.「死と彼女とぼく」 川口まどか
 小学館・刊 全10巻  「死と彼女とぼく ゆかり」 1巻〜3巻(2004.5月現在)
 初出 小学館 別冊少女コミック  KISS連載中
    
 9回目はこれと決めていた、是非とも紹介したいマンガのひとつです。なぜ9回目か、いや、ホラー物なら4か9でしょう?(ひでえ)
 そんなくだらないしゃれはさておき、この作品。ジャンルとしてはホラーに属しているため、当初から拒否感を示している方もいらっしゃるかもしれません(私もそのクチ)。その拒否感のゆえんはやはりホラー作品の描画の過剰傾向にあるのではないでしょうか。
 実際ホラー作品の中で大勢を占めている(と思われる)作品群には、血やら内蔵やらの過激なシーン、、、、果てには人間の倫理観に訴えかける残酷な描写(具体的には書きたくないですが、、、)から読む人々に恐怖心を覚えさせています。その手法自体はホラー系マンガの目的、つまり読む人々に恐怖心を与えるためにきわめて有効な手段なもので、私も一概に否定するつもりはありません(ただし、あまり読みたくはないです)。
 このマンガがホラージャンルにあるにもかかわらず私を引きつけている部分は、過激な描写に頼ることなく、人の孤独感、あるいは霊という存在の悲しさ、重さ、はてには人間という存在、欲、エゴ、他者への愛、、様々な内面性を死者の姿を借りて実にリアルに、そして美しく描かれている点にあります。
 物語の主題は死者の声を聞き、姿を見ることのできる「時野ゆかり」と「松実優作」の二人が歩んだ成長と恋愛の日々(こう書いてしまうと堅くなりますが)を時間軸として描かれています。普通と異なることによって受ける障害、苦難、それは何もホラーという手法を用いなくとも普遍的なものとしてマンガの主題に存在します。それがこの物語では死者というキーワードを通じて実にダイレクトに、私たちの心に訴えかけてきます。苦しい、悲しい、それでも生きる意味とは?
 マンガの中では、では死者とはどのような存在かということをアンチテーゼとして描くことで、今を生きる人間にそのことの大切さを語りかけます。死者は自分の足跡を残せなくなった存在であり、生きている間はそれを気づきにくい。生きていることとは、そのこと自体が幸せなことだと。
 この作品には、訴えかける内容があまりにも多く(その割には最近はチャラチャラした描写も多く、紹介することに骨が折れますが)、とても少女マンガで連載できないのではないかと考えてしまいます。それでも恋愛要素をしっかりと取り込んでいる作者の才能には全く感服するばかりです。
 もしこのページを読んでいる方で、自分について悩む方がいらっしゃるのなら、私はこのマンガをお薦めしたいと思います。深く読んでいただければ、この作品は必ず何かの答えを与えてくれると確信します。
 

 当コーナーでは順次(気が向いたら)マンガ作品を紹介していきたいと思います。
 基本姿勢としては、
 ・好きな作品しか紹介しない
 ・何度も読んだものしか紹介しない
 ・自分が所有している(つまり、それだけの価値があると自分で思っている)ものしか紹介しない
 という三点を挙げます。
 ま、紹介の九割九分は作品リスペクトになると思いますので、かるーい気持ちで読んで下さい。


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