このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
マンガ逍遙
1.「雪の峠/剣の舞」 岩明均
講談社・刊
初出「雪の峠」……講談社 モーニング新マグナム増刊 H11・8号〜11号
「剣の舞」……秋田書店 ヤングチャンピオン H12・8号〜12号
まず最初に岩明均氏のこの本から紹介したいと思います。
このマンガ家さんといえばやはり「寄生獣」が一番有名なのですが、あの作品で生かされた「臨場感溢れる戦闘シーン」の部分はこれら両作品では控えめに描かれ、むしろ背景にあった「人間の生きる意味」または「生に対する空しさ、はかなさ」が前面に押し出されています。
まず「雪の峠」ですが、この作品は関ヶ原合戦後の秋田・佐竹藩における藩府決定に際しての駆け引きが描かれています。若き近習・渋江内膳と歴戦の武将・梶原美濃守の内へ外へと拡がる知謀戦は“静かな臨場感”といった感覚を演出させます。ラストの引き離し方は、作者ならではのある種の美しささえ感じます。
つぎに「剣の舞」について。上泉伊勢守の弟子である疋田文五郎と彼に弟子入り志願した少女・ハルナが戦国時代という時代の中で生きぬく様を描いた物語です。作者お得意の戦闘シーンとともに男女間の微妙な感情の揺れをも描写され、いろいろなものが凝縮されながらひとつの形に完結して収まっているのは、五回限定の短期集中連載だからこそ、といえるでしょう。
両作品をまず最初に紹介したのは、その作品としての「潔さ」です。延ばしもせず、減りもしない決まった分量で十分な表現を成し遂げるという姿勢は、近年のマンガ(この場合、短編は除いて考えます)にはなかなか見られないものだと思います。
作者の新作(ヒストリエ)を読んでいないので、特に追加すべき所はないのですが、近作の「ヘウレーカ」に比較してもこちらの短編に力強さを感じます。日本史マンガのジャンルにおいては現代における山岡荘八/横山光輝マンガ作品に匹敵するのはないでしょうか。
当コーナーではこれから順次(気が向いたら)マンガ作品を紹介していきたいと思います。
基本姿勢としては、
・好きな作品しか紹介しない
・何度も読んだものしか紹介しない
・自分が所有している(つまり、それだけの価値があると自分で思っている)ものしか紹介しない
という三点を挙げます。
ま、紹介の九割九分は作品リスペクトになると思いますので、かるーい気持ちで読んで下さい。
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