このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

HIT THE ROAD Memories Vol.1
December.1998
  
「自由になった日」

 

 「しまった!寝過ごした。えーと、、事務の田中さんに半休にしといてって電話しなきゃ」 僕はびっくりして飛び起きた。回りを見回すと白人の爺さんが気持ちよさそうに寝ている。「そうだ。そういえば、もう会社に行かなくていいんだっけ?」裸足のままユースのキッチンに降りて朝食を取ると、僕は次に何をするか考え込んでしまった。

 2日前に仕事を辞めた僕は、全く英語も話せないくせに「世界中を見て歩こう」などと大それた事を考えて、航空券と45リッターの小さなリュック一つでここニュージーランド最大の都市オークランドへやって来た。すべてが新しいことだらけの毎日。航空会社でチェックインするだけで、売店でお菓子を買うだけで、ローカルバスに乗っただけで、たったそれだけの事に僕は毎日ドキドキしていた。

 オークランドは坂の街だ。おなかが一杯になった僕はパーネルライズを下って鉄道橋をくぐり海へとむかった。無数のヨットの浮かぶオークランドの海は12月の強烈な太陽を浴びてキラキラと輝いている。海沿いの道路を歩いているとローラーブレードの少年が追い越して行く。風の音が聞こえた。知らない人が「Hi」とあいさつしてくれる一昨日までとは全く違う世界。

 自由になった僕は何にでも積極的になっていた。これからの2年間、いろんな街やいろんな人とたくさんで会いたい。そんな一番最初の出会いは、行きの飛行機で一緒になった高校生二人組だった。20分ほど悩んだあげく意を決してぎこちなく声をかけた。「オークランドですか?」まだあどけなさの残る二人は一瞬とまどったあと笑顔で「はい」と答えた。なんでも彼女達は二人だけで高校の冬休みにホームステイに行く途中らしい。

 僕が「今日泊まる所も決めてない」と言うと二人は「え?大丈夫なんですか?」と驚いていた。僕はというと「いやあ、まあたくさん宿あるし、何とかなるでしょう」と答えてはみるものの、内心本当に何とかなるのか?とかなりびびっていて、やっぱり最初の一日ぐらいは予約しとくんだったと少しだけ後悔していた。

 オークランドに着くと二人は乗り継ぎカウンターで手続きをしてから、連絡バスに乗って国内線のターミナルへと向かった。僕も気合いを入れ直してシャトルバスの運転手に話しかけた。「Do you go Youth Hostel?」めちゃくちゃな英語だ。腕に入れ墨のある背の高い運転手はアイスクリームを食べながら「ああ、乗りな」と僕の荷物をトランクルームに積み込んでくれた。

 街が近づいてくると緊張感が走る。そして運転手は町外れの丘の上で「いいか? ユースへは、○×△□£@§℃♀∞☆○ わかったか?」と僕に丁寧に説明して去っていった。聞き取れないのだが何だか一生懸命説明してくれるので申し訳ないような気がして僕はありったけの笑顔をつくって「Yes, OK Thank you.」と答えてバスを降りた。

「はてここは何処?私は誰?」唯一の情報源、地球の歩き方「ニュージーランド」を見て何とか現在位置を把握して迷いながらユースにたどり着いた時にはもう汗びっしょりだ。玄関の前で少し迷ってから意を決してドアを空けた。

「Do you have a bed?」

こうして僕の旅は始まった。

 

 

 

このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください