このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

京都には現在でも花街と呼ばれる場所がある。
祇園甲部・宮川町・上七軒・先斗町・祇園東の5ヶ所がそれだ。

花街には「お茶屋」といわれる料亭があり、客が望めば客間(お座敷という)に舞妓さんを呼び、
「お座敷遊び」を楽しむことができる。

しかし、一般人はそうそう経験できるものではない。
なぜなら、ここに「いちげんさん、おことわり」の精神が脈々と受け継がれているからである。

この「いちげんさん、おことわり」とは何か?
それは、「店になじみのない人は、入店させません」という取り決めのようなものだ。

なぜ、このようなことになっているのか?
その疑問に答えるには、「花街」のしくみついて説明しなければならない。

まず、「花街」には「お茶屋」と「置屋」がある。

「お茶屋」は客をもてなす場である。
このもてなすというのは、座敷で客においしい料理や酒を振舞うということだけではない。

特に祇園では、お茶屋は客へ対するもてなしはもちろんだが、さらに、宿泊先の手配、
その季節に合わせた観光コースのプランニングもする。
いわば、客の京都旅行をプロデュースする役割を担う。

さらに、先に述べたように、宴の席で客からの要望があれば、置屋に連絡をいれ、舞妓さんに
お座敷に来てもらうよう手配するというような具合だ。

客は個人的に舞妓さんを呼ぶことはできない。
必ず、お茶屋から置屋に連絡するしくみになっている。

「置屋」というのは、客を遊ばせる場ではない。
舞妓さんや芸妓さんの生活の場だ。

舞妓さんは「置屋」で生活をし、夕方になると、連絡してきたお茶屋にそれぞれ向かう。

時々、「舞妓さんになりたい」と言っている若い女性を見かけるが、舞妓とはあこがれだけで
務まるようなものではないと、僕は思っている。

舞妓さんたちは、朝はだいたい9時頃に起きるそうで、夕方までは、着物の着付け・言葉遣い・
舞いや琴などの伝統芸能の練習・化粧さらには歩き方までみっちりと叩き込まれる。

それらができないことには、お座敷デビューはない。 つまり、仕事がもらえない。

また、仕事があっても、お茶屋から置屋に帰ってきて、化粧を落としてお風呂に入れるのは、
夜中の2時頃になるという。(もちろん、翌朝は9時起き・・・)

まったく過酷な世界だ。

さて、客たちは「お座敷遊び」を終え宿泊先へ向かう際、お茶屋の女将にお勘定をしようとしても、
女将は受け取らない。

なぜか? 実はここに「いちげんさん、おことわり」の精神が生きているのである。

女将は、客が遊ぶための代金のすべてを、なんと立て替えるのだ。
料理代・宿の宿泊代・花代(舞妓さんの報酬のこと)などすべてを!

客は、後日銀行の口座へそれらの代金を振り込むというしくみ。

つまり、花街では現金でのやり取りはされない。
楽しく遊んだあとに、現金のやり取りでは興ざめといったところなのだろうか。

花街は、それ自体、信頼関係でなりたっている。
「お茶屋」と「置屋」しかり、「先生」と「新人舞妓」しかり、「職人さんとのつながり」しかり。

重要なのは、「客」と「お茶屋」もそうだということ。

その場でお金を使わせない代わりに、信頼できる人しか遊ばせない。
初めて見るような、信頼関係の築けていない「いちげんさん」には遠慮していただくと。

そのような精神が受け継がれ、「いちげんさん、おことわり」は、現在になっても続いているのである。

ちなみに僕、「お座敷遊び」したことありません。(笑)

どのくらいの値段なのか想像もできない。 
「いちげんさん」でなかったとしても、やっぱりお金持ちでなければ「花街」では遊べないかも
しれませんね。

このような、なかなか入れないお店を、「敷居が高い」といいますね。

「いちげんさん、おことわり」のお茶屋さんですが、「どうしてもお座敷遊びを!」という方のために、
お茶屋さんに入ることのできる方法を記載しておきます。 参考までに。

①お茶屋さんとなじみのある知人に紹介してもらう。
②花街にある有名料亭へ行って、その店のご主人に紹介してもらう。
③「おおきに財団友の会」に入会するとお茶屋さんを紹介してもらえるそうです。

蛇足ですが、例えば宴の席で仲良くなった舞妓さんに、「今度一緒に遊びに行きましょう」
なんて誘うとします。

すると、舞妓さんはきっと「よろしゅうお願いします」と言ってくれることでしょう。
いや、絶対に!

ここで、「やった〜、誘いに応じてくれた!」などと有頂天になってはいけません。

これを訳すと、
「よろしゅうお願いします」=「お断りします」となります。

なんでこんなと思われるかもしれないですが、
「(他の客の前で)客に恥をかかせてはいけない」という気遣いなのです。

悪気があるわけではありません。

これが理解できなければ、京都人とはいえないかも・・・・

「いちげんさん、おことわり」の謎

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