このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

イノダコーヒに見る京都人気質

最初に断っておきますが、イノダコーヒーではありません。
イノダコーヒです。

カフェ・ブームの昨今、京都の町にも洒落たカフェが増えた気がします。

特に2002年くらいから、みるみるうちに店舗数を増やしたのが、フレーバー・コーヒーの
火付け役ともいえる、「スターバックス・コーヒー」です。

当時話題性があったので、僕も何度か足を運びました。

が、飽きちゃった。 おそらく、もう行くことはないでしょう。(本当におそらくですが・・・)

どうも、ああいうフランチャイズ展開されている店は飽きてしまう。

ファンには申し訳ないですが、「おしゃれ」を売りにしているように感じられて、
僕のカフェに求める価値観とは、少し違うように感じるのです。

つまり、「京都のカフェ」ではないという感じがします。

「カフェ」という響きがメディアに振り回されているようでいやだなぁと・・・

でも、「喫茶店」っていうのも野暮ったいし・・・

うん、京都にピッタリなのは「コーヒー・ショップ」かな。(このなんとなくノスタルジックな感じがいい)

京都には良い店がたくさんあります。

その中でも、僕にとって「京都のコーヒー・ショップ」と思わせてくれる店が「イノダコーヒ」なのです。

イノダコーヒは、昭和15年に創業し、この業界では老舗となります。

京都でもファンが多く、近頃ではその評判が観光客にも飛び火し、いつ行っても店内は混んでおり、
時には順番待ちをしなければならないこともあります。

僕の友人で「コーヒーはイノダでないと飲まない!」と言い切る輩もいます

数年前に、本店の一部が火災で焼け、「再び本店を営業するかどうかは未定」というイノダ側の
発表が、地元紙に写真入で報じられ、多くのファンをやきもきさせました。

その後、一部改装はされたものの、元の雰囲気をなるべく維持した状態でイノダコーヒ本店は
リニューアルされ、営業を再開しました。

その開店当日には、営業時間の前から多くの客が店の前に列をつくったといいます。

その事実がイノダコーヒの人気を物語っているでしょう。

さて、そんなイノダコーヒに、なぜ僕が京都らしさを感じるのかというと、店のこだわりと柔軟性に
京都人気質を見るような気がするからです。

その、こだわりと柔軟性とは・・・

イノダコーヒのこだわり

①コーヒーにあらかじめミルクと砂糖が入った状態でサービスされる。

始めてイノダコーヒに足を運んだ人は驚きます。
店によると、この配分が、一番おいしくコーヒーを楽しめるそう。
また、仮にコーヒーが冷めてしまっても、おいしく飲める配分なのだそうです。

コーヒーが苦手な人っていますよね。
実際、イノダのコーヒーは濃いめだと思います。
でも、イノダ配分だと気にならないのか、そのような人でも「おいしい」と言って飲んでいます。
また、コーヒーの香りも飛んでいません。
恐るべしイノダ配分!

・・・僕にはちょっと甘めかな・・・
でも、イノダのそういうこだわりが好きなので、僕はいつもイノダ配分で楽しんでいます。

ちなみにイノダのコーヒー・カップは厚めです。

薄いものより厚いものの方がおいしくコーヒーが飲めるそうで、「全然違います」と店員さんも
おっしゃっています。

②店の外観・内装がいい感じ。

イノダコーヒ本店は、周囲の景観と調和が取れるように「町屋」風に造られています。
(決して最近の流行に便乗されたわけではない、むしろ、イノダの方が先)

ところが、店内に足を踏み入れると一転して「サロン」風になっています。
・大きめのテーブルだが、隣の席とは程よい距離が空いている、
・大きな窓から中庭が望める、さらにその中庭には噴水がある、
・真ん中が空いた大きな円卓があり、その周りに客用の椅子を並べ、円卓の真ん中に
入った店員が周りの客にサービスをする(ここに座るのは、もっぱら常連さん)

客席には大きめのテーブルが使われていますが、隣の席とは程よい距離が保たれているので
周りが気になることはありません。

なぜ、内装がサロン風なのか? それは、創業当時の客には文化人が多く集まり、お互いの
思想や主張をこの店内で熱心に語り合っていたそう。 それにはサロン風の造りがもっとも
適しているという判断だからだそう。

「文化人が集まるサロン」、そういう意味ではイノダコーヒはパリのシャンゼリゼ通りにあるような
「カフェ」と同等なのか! イノダコーヒこそ、真のカフェだ!

ちなみに著名人でもイノダコーヒのファンは多いそうです。
作家の谷崎潤一郎さんや俳優の高倉健さんなど・・・

③店員の接客が素晴らしい。

イノダコーヒの店員さんは、黒のスーツに蝶ネクタイといういでたちです。
店員さんは、客と接することを必要最小限に留めます。
客がくつろいでいるのを邪魔しない配慮なのです。

しかし・・・
オーダーを取りに来て欲しい・おヒヤのおかわり欲しいんだけど・スプーン落としちゃったなどなど
の客の要望に、たいていの場合、客が声を掛ける前にどこからともなく現れ、的確な対処を
してくれます。

普段、店員さんは客のそばに控えてはいませんが、常に周囲に気を配り、客と「付かず離れず」
の関係を保っています。

④パンがおいしい。

イノダコーヒでは、いわゆる喫茶店にありがちな軽食メニューはありませんが、おいしいパンを
食べることができます。 

サンドイッチをはじめ、ロールパンやフレンチ・トーストなどが食べられます。

特にサンドイッチは特筆するに値するものです。

それは、使用するハムなどは本場ドイツ製のものを使っているなど、パンに挟む具に確かなものを
使うという姿勢が伺えます。

「ロースカツサンド」の肉の厚さたるや、驚きです。

「クラブハウスサンドイッチ」においては、6枚の食パンを使うといったヴォリュームで、ランチ代わり
にも充分対応できます。

そのおいしさゆえに、「あれだけあったサンドイッチを、もう食べ尽くしてしまった」ということも
しばしば・・・

イノダコーヒの柔軟性

①コーヒーをオーダーすると、店員が「ミルクと砂糖はどうされますか?」と尋ねる場合がある。

イノダのコーヒーは、あらかじめミルクと砂糖が入った状態でサービスされるというのは先に書いた
とおりです。

これは、常連客をはじめ、京都人には有名なことなのですが、イノダコーヒがガイドブックなどにも
紹介され、観光客の来店も多くなった近頃では、そういう人たちのために店員が客の好みを
尋ねるようにしているそうです。

しかし、わざわざ客全員に尋ねているわけではありません。

店員が「地方から来店された方だ」と感じた場合そうするようです。

客の話している言葉やしぐさなどで判断しているそうです。

また、尋ねられなくても、自分の好みを言えば(「ブラックで」とか「砂糖少なめ」など)快く応じて
もらえます。

イノダ配分は強制ではないのです。

②イノダコーヒの看板メニュー「アラビアの真珠」。

イノダが誇るオリジナル・ブレンドは数種類あるのですが、創業以来の看板メニューとなって
いるのが「アラビアの真珠」です。

この「アラビアの真珠」は、創業者・猪田七郎氏による絶妙のブレンドとして、イノダコーヒの顔とも
なったのですが、当時コーヒーは、朝に飲むもの(朝食に添えるもの)というような飲まれ方だった
そうです。

その後コーヒーは、昼の休憩時にも飲む、さらに、一日中飲むというように、ライフ・スタイルの変化
とともに「コーヒーの飲まれ方」も変わってきました。

そのスタイルに合わせるように、「アラビアの真珠」はブレンドの配合を、現在までに7回少しずつ
変更してきたそうです。

なんだか、イノダコーヒの宣伝みたいになってしまいましたが・・・(いいんだ、好きだから)

客にもっともおいしいコーヒーを提供しようとするこだわり、時代の流れに応じて、看板メニューにまで
手を加え続ける柔軟性。

これらに僕は京都人の気質を見る思いがするのです。

皆さんも観光地めぐりで歩き疲れたなら、ぜひイノダのコーヒーでリフレッシュしてください。

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