このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

富士擬(ふじもどき) 〜富士と間違いやすい山について

富士を求めて各地を旅していると、富士以外でもすばらしい山に数多く出会うことができる。そのなかでも「皿型」と呼ばれるものと「岩型」と呼ばれるものは各地で似たタイプを見ることができ、こちらのほうも名古屋の誇るすばらしい山々といっても差し支えないであろう。ただわたしが富士を探して名古屋の人びとに話を聞いて歩くと、これらの山を富士と混同して覚えているひとが少なからずいる。それはこの山々も、生活のなかに当たり前の風景として溶け込んでいる証拠とも言えなくもないが、できればやはり富士は富士としてしっかり区別して覚えておいてもらいたいものである。ここでは「皿型」「岩型」の典型的なスタイルの山を紹介する。バラエティーに富んだ名古屋の山々をいっそうの興味をもって眺めていただければと思っている。
まずは皿型から。名古屋近郊には伊吹山や藤原岳など良質の石灰石を産出する山が少なくないが、これもその一種。町なかにあるために早くから目をつけられ、かなりの部分が採掘されてしまった。そのためにずいぶんと見苦しい姿になって長らく放置されていたが、後年になって柵などの安全対策が施された上で市民に開放された。今ではそれぞれが地域の憩いの場となって活躍している。右の写真は東区にある主税(ちから)山。見ての通り皿の部分は安全のためきれいにならされているが、周りのガレのあたりに昔日の面影が残る。かなり急勾配の山であるが山頂に向けては鎖など張られているのが普通で、若きクライマー達は慣れた手つきでスイスイ登ってゆく。この皿型は名古屋各地に点在しており、全体の数までは把握していないが、富士と同じ程度の数があるのではないかと見られる。

こちらは岩型である。見ての通りかなり無骨な印象を与える。昔の山城の趾だろうともいわれるが、はっきりした確証はない。写真は豊臣山、豊国富士のすぐ北にある。秀吉公生誕の地にあるから、そう言われるといかにもそのような気がしてくるが、それほどまで昔のものではないのではないか。土地の古老の話では明治中期になってから各所に次々に造られたものだという。その老人は昔会った殿様の話や、若き日の千人斬りの話などを遠い目で懐かしそうに話してくれた。そんな岩型であるが、鎖、ハシゴ、防護壁、ガレなど、仕様はどこの山も同じようなものであるから、ある同時期に急速に広まったことだけは確かであろう。なお分布としては、これも名古屋各地に点在しており、数としては富士や皿型にくらべれば若干少ないような気がする。

なお名古屋には他にもさまざまなタイプの山が見られるが、似たものが各地に点在する例はこのほかには無いように思われる。また皿型、岩型ともに富士同様さまざまなバリエーションが見られるので、興味のある方はぜひ研究してみるとよい。


   註:「皿型」「岩型」および山の名前は作者によって命名されたものです。万が一使用されて、
      話が通じない、恥をかいた等の不都合が生じた場合でも当方は一切の責任を負いかねます。



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